大矢博子の推し活読書クラブ
2018/05/02

二宮和也主演「ブラックペアン」は原作からの改変に企みあり? 黒ニノのここに注目

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

 傘がぶつかり真っ直ぐ歩けない皆さん、こんにちは。「ブラックペアン」(TBS)の黒ニノ、堪能してますか? 第2回が終わったところでこれを書いておりますが、このドラマ、原作からなかなか面白い改変の仕方をしてますよ。

■二宮和也(嵐)・主演!「ブラックペアン」

 原作小説は海堂尊『ブラックペアン1988』(講談社文庫)。1988年(昭和63年)を舞台に、東城大学付属病院に勤務する研修医の世良雅志が、高階権太と渡海征司郎のふたりの外科医との出会いを通して成長する物語だ。自動吻合器(臓器をつなぐ機械)スナイプを使って旧弊な病院組織を改革しようとする高階の戦いと、腕はいいのになぜか露悪的な態度をとる渡海の秘密がキモとなる。

 ドラマでは主人公がニノ演じる渡海に変更されたと聞いていたが、視点人物は世良(竹内涼真)のままなので、今のところは原作とイメージの違いはない。また、現代の話になっていることと、原作では腹部外科(特に食道癌手術)だった舞台が心臓外科に変更され、スナイプも吻合ではなくて人工僧帽弁を入れる機械に変わっているが、これらも原作のテーマを大きく変えるものではない。

 では、何が違うのか。高階ですよ高階! 初回を見てびっくりしたね。ドラマで小泉孝太郎さん演じる高階は、初回、最新機器スナイプをひっさげて東城大の医師たちをナチュラルに見下す嫌味な存在として登場した。同時に、口では大きなことを言いながら非常事態には対処できず腕の無さを露呈して、ニノ演じる渡海にいいところを持っていかれる。

 でも! 原作では! 高階は高邁な理想と強い信念を持ち、手術の腕も抜群でリーダーシップもあり、明るくて人に好かれる人格者。とってもかっこいい役なのである。えええ、あの高階さんをこんなふうに描いちゃうの?──と思っていたのだが、第2回を見てちょっと考えが変わってきた。

 第2回、やっぱり高階は失敗し、そこを渡海がフォローする(原作の高階は失敗しない)。それだけなら第1回と同じ構図だが、世良を励ますくだりや、ラストシーン間際で渡海と世良と3人で話している場面など、初回の悪役感が薄れている。むしろ原作の高階のキャラをほんの少し混ぜてきた気がしたのだ。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作を変えてきた……と思っていたが

 渡海を見てみよう。出世を拒否したヒラの医局員だが手術の腕は院内でも一、二を誇るというのは原作と同じ。渡海が指導した研修医は辞めていくというのも同じ。ただ原作の渡海は、もっと軽薄だ。ふざけたり、不真面目ぶったり、馴れ馴れしかったり。どうも外科の上司である佐伯教授に何やら含むところがあるらしい。その一方で、難しい手術のときはいつ何があってもいいように、こっそりスタンバイしていたりする。

 翻ってドラマでニノが演じる渡海は、もっと黒い。人に対して「邪魔」と言い放ち、手術を助けて欲しかったら1千万円払え、などと言う。第1回では黒さ全開だった。唯一人間らしいところが見られたのは母親との電話シーンだけ。これまた原作とはずいぶん変えてきたなあと思ったのだが……。

 第2回を見て、こちらもまた印象が少し変わったのだ。手術の失敗で院内で立場をなくした高階を庇う場面があった。また、困難な手術のときにさりげなくスタンバイしていたし、患者の命が危険にさらされている場面でスナイプ手術を続けるよう指示した佐伯教授(内野聖陽)に対し、一瞬、「マジか」という表情を見せた。おや? この渡海って、黒いだけの人じゃなさそうだぞ?

 つまり、初回では人物造形を大きく改変したように見えたが、第2回で少しだけ原作の造形に寄せてきた感があるのだ。まだ2回しか放送されてないのでなんとも言えないのだが、もしかしたら原作を変えたように見せかけて、ゴールは原作通りという収束のさせ方をするのではないか。原作では渡海が自らの秘密を世良に語る場面があるのだが、そこをどう描いてくるか楽しみだ。

 個人的に気になったのは、原作に出てくる患者エピソードのほとんどを第2回までで使ってしまったこと。どうすんだよこれから。オリジナルでいくのか、それとも原作のシリーズ続編である『ブレイズメス1990』『スリジエセンター1991』(ともに講談社文庫)が心臓外科の話なので、そっちからエピを持ってくるのかな?

■黒いニノのここに注目

 以前、このコラムで三谷幸喜脚本の「オリエント急行殺人事件」(フジテレビ)を紹介した時、ニノは「ただカッコイイ役よりも、喜劇性と狂気を併せ持つ役の方が何十倍も真価を発揮する」と書いた。そういう意味では、今回の渡海役にはそういった振り幅はない。けれど前述した「最終的に原作に寄せていく」という推測が当たっているとしたら、今回のニノは振り幅ではなく、黒さの中に隠しているものを少しずつ覗かせる、という過程にこそ見所がありそうだ。

 下からねめつけるように「邪魔」と言い放つニノ、普段のかったるそうな喋りからここ一番で怒鳴ったりドスの効いた声で脅したりと七色の声音を使い分けるニノなど、ファンにはたまらないブラックニノのオンパレード。左利きのくせに右利きのやり方で糸を結ぶ(利き手を変えて糸を結ぶって字を書いたり箸を使ったりするより難しいと思う)あたりなんて、すごいなあと思わず見入ってしまうのだが、ここまでニノには笑顔のシーンがないことにお気づきだろうか?

 皮肉めいた嘲笑や、何かを企むような薄笑いはあっても、素直な笑顔はひとつもない。そういう役だ。では笑顔なしに黒さじゃないものをどう覗かせるのか。はっきり見せるのではなく、ほのめかす演技。そこにこそ注目していきたい。それと、原作通りに進むなら、クライマックスでは渡海の感情が爆発する場面があるはず。そこもお楽しみに。

 このドラマを見て渡海についてもっと知りたいと思ったら。原作の『ブラックペアン1988』に続くシリーズの2作品には渡海は名前しか出てこないが、医学生の速水(ドラマでは世良の同僚になっているが原作では年下)を主人公にした『ひかりの剣』(文春文庫)に、『ブラックペアン1988』の一場面を速水視点で描いたパートがある。そしてぜひ読んでほしいのが短編集『ランクA病院の愉悦』(新潮文庫)所収の短編「緑剥樹の下で」と、長編『モルフェウスの領域』(角川文庫)だ。えっ、あっ! と思うはずだから。

 海堂尊の小説は大部分が同じ世界を舞台にしている。本編原作は1988年が舞台だが、その18年後の2006年が舞台のデビュー作『チーム・バチスタの栄光』(宝島社文庫)では高階が東城大付属病院の院長になっている。その過程が知りたければ、ぜひ他の作品にも手を伸ばしていただきたい。

—-
2017/05/16
第25回アンケートの受付は終了いたしました。

 平和を願い、個性的な大名たちの間で常に〈調整役〉として能力を発揮した賢君・松平春嶽。橋本左内を有能な懐刀として信頼し、その能力を愛で、左内からも尊敬され、彼の刑死に責任と後悔で慟哭する春嶽を演じて欲しい俳優には1位に二宮和也さん(嵐)、2位に長瀬智也さん(TOKIO)、3位に大野智さん(嵐)でした。
ご参加をありがとうございました!

 第26回は、『ラプラスの魔女』の前日譚である東野圭吾『魔力の胎動』。この連作で円華の相棒を務めるのが若き鍼灸師の工藤ナユタ。医学部に入りながら鍼灸師になったことで親からは勘当されている。やっぱり円華に振り回される役どころで、気の弱いところもあるが優しい人物だ。けれど実は(ネタバレになるので以下自粛)。

 そんなワケあり鍼灸師・ナユタをジャニーズがやるなら……大矢のチョイスは、マッサージ探偵も演じた中丸雄一! あなたは誰に演じて欲しい?
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【26】

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

  • シェア
  • ポスト
  • ブックマーク

連載記事