大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2018/05/16

櫻井翔主演「ラプラスの魔女」 複雑なストーリーは原作で補完! あのキャラの心理に迫る

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 これが最初のタイトなパイオニアの皆さん、こんにちは。辛いニュースもあったけど、元気出していきましょう。これから夏にかけて期待のジャニーズ出演映画がどんどん出てきますよ。その先陣を切ったのが、このゴールデンウィークに公開された、これだ!

■櫻井翔(嵐)・主演!「ラプラスの魔女」

 映画「ラプラスの魔女」(2018、東宝)の原作は東野圭吾の同名小説『ラプラスの魔女』(角川文庫)。東野圭吾の小説は片っ端から実写化されており、ジャニーズの出演も多い。嵐ではニノがドラマ「流星の絆」(2008年、TBS)や映画「プラチナデータ」(2013年、東宝)に主演。翔くんにとっては、ドラマ「トキオ」(2004年、NHK、国分太一主演)以来14年ぶりの東野作品となる。

 雪の温泉地で硫化水素中毒による観光客の死亡事件が起きた。専門家として安全性の検証を依頼された泰鵬大学の青江修介教授は、現地でひとりの若い女性の姿を見かける。刑事から殺人の可能性を聞かれて、野外で硫化水素中毒を人為的に起こすのは不可能と断言した青江だったが、後日、別の温泉地で同様の事件が発生。そしてその現場近くでも、青江は同じ女性と出会った。羽原円華と名乗ったその女性は、死体が見つかった場所に案内してほしいと青江に頼む。この2件は本当に不幸な事故なのか? それとも……?

 というのが原作・映画両方に共通する設定だ。物語はここから、事件なのか事故なのか、殺人事件だとしたら2件の被害者の関係は何なのか、そしてどうやって屋外でピンポイントで硫化水素ガスを溜めることができたのかという3つの謎を中心に進むことになる。さらに、鍵を握っているらしい円華の存在と、随所に挟み込まれる不思議な現象の正体は何なのかという謎がそこに加わる。

 つまりこの物語はいくつもの謎が並列して提示され、それぞれの手がかりが複合的に存在するという極めて複雑な構成なのだ。その上、謎を追うのも青江と中岡刑事の2ルートがある。これをきちんとすべて映像化するには2時間やそこらではとても足りない。どうするのかな? と思っていたのだが、映画を見て驚いた。どの謎も落とさず、全部入れてきている! どうしてそんなことが可能だったのか。謎と直接的な手がかり以外のすべての情報を、極限まで削っていたのだ。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作から削られたシーンの意味

 粗筋だけ見れば、映画と原作はほぼ同じと言っていい。オリジナル展開や設定の改変は何もない。その代わり、かなりの場面を削除することで時間内に収めたのがこの映画なのである。したがって展開がとても速くなっているし、説明が削られた分、謎めいた雰囲気は原作より増していると言っていい。

 だが、これはぜひとも原作を読んでほしい。何としてでも原作を読んでほしい。なぜなら原作を読めば、登場人物たちの心の動きや物語のテーマがもっとよくわかるはずだから。

 削られたのは、たとえばこういう場面だ。中岡刑事はなぜこの事件が殺人だと執拗にこだわったのか。どんな人に聞き込みをし、どんな反応を得たのか。武尾はどんな性格で、なぜ円華のボディーガードになったのか。青江はなぜこんな小娘に振り回されるのか。第1の事件の被害者と妻の関係はどのようなものだったのか。桐宮は普段、円華をどう扱っているのか。羽原医師はどのような思いで施術に臨んだのか。青江の趣味や私生活はどのようなものなのか。事件が起きたあと、温泉地にどんな影響があったか……。

 東野圭吾作品の登場人物は、いわゆる「キャラ立ち」ではない。東野圭吾は各人のキャラを描くのではなく、エピソードを重ねることでその人となりを描き出す作家だ。端役ひとりひとりに至るまで、それぞれの事情や感情、喋り方、考え方、生活の描写を丹念に重ねることで人物がリアルに浮かび上がり、その行動に説得力が出る。だから映画を見てもしもあなたが「どうしてこの人はこういう行動に出たんだろう」とか「この人はこのとき何を考えていたんだろう」などの疑問を持ったとしたら、その答えはすべて原作にあるのだ。

 この作品のテーマは「自分にできることを地道に続けていく凡百の人々こそ世界を構成する原子」という部分にある。登場人物ひとりひとりを丁寧に描くことで、彼らもまた世界を構成する原子なのだと著者は告げているのだ。残念ながら時間の都合で削られた彼らの背景を原作で知れば、このテーマがより胸に響くことと思う。

■櫻井翔演じた青江の存在意義は

 4年ぶりの映画主演となった翔くんだが、今回の青江は主人公としては独特の立ち位置にある。彼が探偵役として謎を解くわけでもなく、広瀬すず演じる円華や福士蒼汰演じる甘粕謙人の問題を解決するわけでもない。中心となって活躍するわけでも物語を引っ張るわけでもない。ただの環境調査のはずが一方的に巻き込まれ、刑事や円華らに振り回される青江は、ひたすら受け身だ。映画でも原作でも、むしろ主人公らしい印象を残すのは円華の方だろう。

 ではなぜ青江が主人公なのか。彼は触媒であり接着剤なのだ。前述した複数の謎と複合的な手がかりは、青江のもとに集まる。その結果、円華たちの行動と刑事の捜査を結びつける役割を果たす。さまざまな情報が青江のもとで結びつき、整理され、読者に提供される。青江なしではこの物語は成立しないのである。

 映画のパンフレットで翔くんは自らの役をストーリーテラーと言っているが、むしろ彼が嵐で担当しているMCに近いと感じた。自分が前面に出るのではなく、他のメンバーやゲストの個性を見極めて際立たせ、結びつける。時には振り回され、時にはツッコみ、トークを整理していく。中心で喋っているけれど、だからといってひとりだけ目立つのではなく、場のバランスをとる。それはとても能力の要ることだ。青江の位置は、まさにそれではないか?

 原作の青江は原稿を書くのを忘れて助手に叱られたり、レゴブロックが趣味だけど場所をとると家族に叱られるので作っては崩しを繰り返したり、スマホに夢中な息子の扱いに悩んだりと可愛い描写も多い。その一方で、事件で客足の減った温泉地の人々を救いたいという思いを持ち続ける正義漢でもある。大学教授という知性、抜けたところのある可愛さ、まっすぐな情熱。それらを持ちながら、決して出しゃばらず、周囲に振り回されながらも場をコントロールするMC的役割を果たす。うん、まさに翔くんだ。ぜひ原作小説を、翔くんでジャニ読みしていただきたい。

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2017/05/30
第26回アンケートの受付は終了いたしました。

 『ラプラスの魔女』の前日譚である東野圭吾『魔力の胎動』の連作で円華の相棒を務めるのが若き鍼灸師の工藤ナユタ。医学部に入りながら鍼灸師になったことで親からは勘当されている気の弱いところもあるが優しいナユタを演じて欲しい俳優には1位に生田斗真さん、2位に櫻井翔さん(嵐)、3位に風間俊介さんでした。
ご参加をありがとうございました!

 第27回は、『モンテ・クリスト伯』には登場するのにドラマに出てこない、モルセール伯爵の息子のアルベール。山賊に捕まったところをモンテ・クリスト伯に助けられ一気に崇拝したかと思えば、父を陥れたのがモンテ・クリスト伯と知って公衆の面前で決闘を申し込むという、単純にして直情型そんなアルベールをジャニーズがやるなら……たっちょん演じる南条の息子と考えると、大矢のチョイスは、知念侑希!(Hey!Say!JUMP) あなたは誰に演じて欲しい?
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大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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