大矢博子の推し活読書クラブ
2018/06/27

仲間を守るために闘い続ける長瀬智也 映画「空飛ぶタイヤ」が胸に響く理由

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 逢いたいと思うだけで胸が痛む皆さん、こんにちは。GWからジャニーズ出演映画が相次いで封切られ、おかげでこのコーナーも2週に1回のペースを変更し、2週連続でお届けしております。でもその映画ラッシュもこの作品で一段落。記念すべき連載第30回は、これだ!

■長瀬智也(TOKIO)・主演、阿部顕嵐(Love-tune/ジャニーズJr.)・出演!「空飛ぶタイヤ」

 映画「空飛ぶタイヤ」(松竹)の原作は、ヒットメーカー池井戸潤の同名小説『空飛ぶタイヤ』(講談社文庫、実業之日本社文庫)。これまで池井戸作品にジャニーズからは「七つの会議」(NHK)の東山紀之、月9ドラマ「ようこそ、わが家へ」(フジテレビ)の相葉雅紀、「陸王」(TBS)の風間俊介などの出演歴がある。他に「半沢直樹」「下町ロケット」(ともにTBS)などヒットしたドラマは枚挙にいとまがないが、今回の「空飛ぶタイヤ」は池井戸作品初の映画化だ。

 運送会社の2代目社長・赤松のところに、自社のトレーラーがタイヤ脱落事故を起こし直撃を受けた被害者が亡くなったと連絡が入る。一方的に整備不良と決めつけられ、人殺し扱いされた赤松運送は倒産の危機に。しかし赤松は同種の事故が他にもあったことを知り、トレーラーに構造的な欠陥があったのではと疑い始めた。社員と家族を守るため、赤松は大企業を相手に真実を求めて闘いを始める……。

 さらに、社内の不正の噂を利用して出世を狙うホープ自動車販売部の沢田や、リコール隠しの噂を聞いた銀行の融資担当・井崎も主人公格で登場し、群像劇の形で物語が進む。社内と社外、それぞれのルートで巨悪と闘う様子が描かれるのが特徴だ。

 中小企業が大企業に闘いを挑むという構図は「陸王」「下町ロケット」と共通するし、組織の不正に社員が立ち向かうのは「半沢直樹」や「鉄の骨」(NHK)と同じ。つまり本作も、池井戸潤お得意のパターンのように見える。だが実は、銀行を舞台にした金融ミステリばかり書いていた池井戸潤が初めて銀行以外の企業ものに挑戦した、記念すべき転換点の一作がこの『空飛ぶタイヤ』なのだ。今の池井戸潤の快進撃は、この作品から始まったと言っていい。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作と映画、ここが違う

 これだけ映像化された池井戸作品にあって、実は映画は本作が初めてというのは少し意外な気がする。だがそれには理由がある。原作が総じて長いため2時間にまとめるのが難しいというのがひとつ。もうひとつは「陸王」の回でも書いたように、とにかく池井戸作品は逆転に次ぐ逆転が大きな魅力だからだ。短いスパンでピンチとその解決が繰り返されるので、連続ドラマにうってつけなのである。

 そこを敢えて映画にしたわけで、当然カットされる部分が出てくる。今回は、原作に登場する赤松の家族の問題がすべてカットされていた。赤松運送の整備不良のせいで人が死んだ、とされたことがきっかけで、赤松の息子が小学校でいじめに遭う。それでクラス内に問題がおき、PTA会長の赤松はその対応でも忙殺されることになるのだが、そのくだりは一切映画には出てこない。

 全体の構成を考えると、確かに企業不正に絡む一連の流れにいじめやPTAといったものが入ってくると、2時間の映画ではまとまりにくくなるだろう。だからここをカットしたのは当然かもしれない。だが原作では、このパートもなかなかに面白いのである。

 赤松の息子、小学5年生の拓郎のクラスでお金の紛失事件が起きる。その犯人として拓郎が陥れられるのだが、その犯人や動機を、たまたま赤松が目撃したある出来事から推理して解決する──というのがそのパートだ。お金の動きを追うわけで、これまた小学生とは言えプチ経済サスペンスになっているところが著者らしい。「容疑者」にPTA会長は任せられないと赤松に詰め寄る母親たちとの争いも、本編同様に逆転また逆転で実に痛快。ここだけ独立させた短編スピンオフにしてもいいくらいだ。

 他に原作との違いと言えば、ホープ自動車の沢田がバツイチになっていたこと。原作に登場する沢田の妻はかなりカッコいい。この妻の言葉に背中を押され、沢田は矜持を取り戻していく。とても大事な存在なのだ。ここはぜひ、原作で確認していただきたい。

■仲間を守る長瀬の姿に胸アツ、顕嵐くんとのキャッチボールにも注目!

 映画公開の前日、6月14日の中日新聞に載った「空飛ぶタイヤ」の短評の最後の一文に思わず笑ってしまった。「長瀬やフジオカ、高橋一生ら出演者にいい男がそろいすぎて、リアルさをそぐ」とあったのだ。いやいや、映画やドラマでそれを言っちゃオシマイでしょ! ……ところが、である。実際に映画を見て、この短評を書いた人の気持ちがわかったよ。ホントにリアリティないくらいのイケメンパラダイスだったんだもの。

 そのパラダイスの一角を担っているのが、赤松運送の整備士・門田役で映画初出演を果たした阿部顕嵐くんだ。金髪でトンガってるが、実は人一倍真面目という役(原作では「猿顔」という設定だが、もちろんそこだけは原作と異なる)。社長の赤松に可愛がられ、映画冒頭では社長とキャッチボールをする場面がある。顕嵐くんと長瀬のキャッチボール! 初手からジャニオタのテンション上がりまくりだぞ。

 だが、すぐにそのテンションに水をかけられることになる。長瀬演じる赤松はある日いきなり事件の渦中に放り込まれ、矢面に立って遺族や世間からの批判を受け、頭を下げる。その上で、再起に向けて懸命に名誉回復に努めるが、会社の仲間を守るという自分の闘いが、被害者にとっては反省してないように映ってしまう。結果、被害者家族を傷つけることになるのでは、会社を畳んだ方がいいのでは、と悩む場面もある。その上で、それらすべてを飲み込んで、仲間を守るために闘い続ける。

 その長瀬の姿に、いろんな思いが重なった。映画の見方としては邪道だが、思い出さずにはいられなかった。だから、赤松運送が倒産しかけたとき、顕嵐くん演じる門田が「最後のひとりになっても、俺は社長について行く!」と叫んだときには、映画のストーリーを超えて、ジャニオタとして、TOKIOファンとして、ひときわ胸に響いたのである。ファンの勝手な深読みであり、こじつけだと、充分承知の上で。

 積み上げたものが壊され、それをひとつひとつ修復していく赤松。何度負けても、突き落とされても、逆転に向けて頑張る赤松。それは台風で崩れたDASH島の石橋や反射炉を作り直すTOKIOの姿にも似ている。チームで何事かを成し遂げる強さをジャニーズで最も知っているのはTOKIOだ。そして、壊れかけたものを以前より強く作り変える方法を知っているのも、またTOKIOなのである。

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アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【30】

 池井戸潤は銀行ミステリが出発点だったが、黒川博行の1985年の作品『雨に殺せば』(創元推理文庫、角川文庫)も銀行が舞台だ。現金輸送車から1億円が奪われ、銀行員2名の遺体が発見される。さらに事情聴取を受けた銀行員が自殺して……というもの。
 黒マメコンビこと、黒木憲造と亀田淳也のふたりの刑事が活躍する「大阪府警シリーズ」の一冊である。これが実にいいコンビ! 特に仕事ができる黒木に引っ張られる亀田がいいのだ。
 20代後半、童顔でコロコロした体型から「マメちゃん」と呼ばれ可愛がられる亀田。陽気で、天然ボケで、上司にこき使われながらも笑顔を忘れない。高校への聞き込みに女子高生が見られるとワクワクする。そんなマメちゃんをジャニーズがやるなら……大矢のチョイスは、桐山照史!(ジャニーズWEST)
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大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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