大矢博子の推し活読書クラブ
2018/07/25

横山裕の「そのまんま」が出た主演映画「破門 ふたりのヤクビョーガミ」は原作にも注目

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 高らかに夢を明日へと掲げる皆さん、こんにちは。関ジャニ∞のツアー「GR8EST」が始まりましたね。6人体制での初ツアー、いろんなグッズが6種類になってて少し寂しかった中、ペンライトが7色に光るのは嬉しかった! でも物販に並ぶときは、熱中症にはくれぐれもご注意くださいね。

■横山裕(関ジャニ∞)・主演、濱田崇裕(ジャニーズWEST)・出演!「破門 ふたりのヤクビョーガミ」

 2017年に公開された「破門 ふたりのヤクビョーガミ」(松竹)、原作は黒川博行の直木賞受賞作『破門』(角川文庫)だ。佐々木蔵之介演じる二蝶会のヤクザの桑原と、ヨコこと横山裕演じる経営コンサルタントの二宮の一風変わったバディもので、原作小説は1997年に刊行された『疫病神』(角川文庫・新潮文庫)を皮切りに、最新作『喧嘩(すてごろ)』(KADOAKWA)までシリーズ6作を数える。『破門』はその5作目だ。

 映画製作への出資金をプロデューサー・小清水に持ち逃げされた桑原と二宮。小清水の家に向かったところ、因縁をつけられた桑原は本家筋である亥誠組の構成員をボコボコにしてしまう。責任を問われた桑原は金でケジメをつけようと、二宮をムリヤリ巻き込んで小清水を追いかけるが、どうやら亥誠組は小清水の一件にも絡んでいるようで……。

 二宮はカタギだが、父親は二蝶会の次期組長とも言われていた人物だった。その前に亡くなったため直接の縁は切れたものの、若頭の嶋田が二宮を可愛がっており、建設現場で起こりがちなヤクザの揉め事を別のヤクザを使って抑える「サバキ」の仕事を回してもらっている。なのでカタギではあるのだが、裏社会とのつながりもふんわり残っている、という次第。

 その仕事で知り合ったのが嶋田の下にいる桑原。これがまた、原作の言葉を借りれば「イケイケの、出たとこ勝負の、喧嘩の星のブチ切れヤクザ」で、とにかく手が早い。二宮を気に入ってるんだか何なんだか、やたら二宮を引っ張り回し、二宮も渋々ながら桑原に従い、毎回厄介ごとに巻き込まれていく……というのがシリーズのパターンだ。

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イラスト・タテノカズヒロ

■映画には登場しなかった原作随一の癒しキャラ

 映画では小清水を捕まえるまでのあれこれや、金をぶんどるまでのあれこれなど細かい部分がカットされているが、ストーリーそのものは原作に忠実だ。が、個人的に「これをカットしちゃったのかあ!」とひどく残念だったことがあった。原作で二宮が飼っているオカメインコのマキちゃんである。マキちゃんが出てこないなんて!

 マキちゃんはめちゃくちゃ可愛いのだ。「メリーさんの羊」を歌ったり、客の頭の上に乗ったり、二宮の肩に止まって「ピッピキピー」と鳴いてフンをしたり。39歳(映画では33歳)の二宮が、マキちゃんに向かって「啓ちゃんは出かける。マキちゃんお留守番やで」とか「啓ちゃんはへろへろやで」とか、自分のことを「啓ちゃん」と呼んで話しかけるのがもう萌え度MAX! ああ、これをヨコでやって欲しかった! どうか原作の二宮をヨコでジャニ読みして、マキちゃんとのキュートな交流を味わっていただきたい。小説に出てこない場面では、あれ絶対赤ちゃん言葉使ってると思う。

 もうひとつ、大きな違いは二宮の内面描写だ。映画はコミカルでテンポのいい、笑いありアクションありのヤクザ・エンタメでありつつ、クライマックスではヨコ演じる二宮の葛藤が前面に出てきた。亥誠組にボコボコにされている桑原たちを置いて逃げるべきか、助けに戻るべきか。とてもいいシーンだったが、実は、あの場面は映画オリジナル。原作では桑原たちは自力で相手を倒し、一足先に逃げた二宮は呑気に食堂でざるうどんを食べている。原作の二宮は悩まない。というか内面を見せないのである。

 この「疫病神」シリーズは大阪弁の会話で物語が進む。ノリの良さや会話そのものの面白さに目が行きがちだが、よく読むと、嬉しいとか悲しいといった心理描写がセリフにも地の文にもほとんど出てこないことに気づくはず。桑原と二宮の会話は憎まれ口ばかり。それなのに、「ああ、このふたり、ひねくれた形ではあるけど、互いのこと好きだよな」というのがごく自然と読者に伝わるのである。シリーズ既刊を順に読んでいけば尚更。特にオススメは、ふたりが北朝鮮に潜入するシリーズ第2作『国境』(文春文庫)だ。

 映画だと、役者の表情や動き、台詞回しに登場人物の「感情」がにじむ。だが小説は文字しかない。文字しかないのに内面を描かないから、読者が目にするのは彼らの会話と客観描写だけだ。それなのに伝わる。それなのにどんな表情でそのセリフを言ったのかが目に浮かぶ。それが「疫病神」シリーズの魅力であり、黒川博行の技術であり、小説の力なのだ。

■すばるに「そのまんま」と言われたヨコの演技とは

 ヨコの映画デビューは、まだ関ジャニ∞結成前の1998年、「新宿少年探偵団」(松竹・原作は太田忠司の同名小説)だ。嵐になる前の相葉ちゃんや松潤との共演で、ヨコが演じたのは謎の少年・蘇芳。物語の鍵を握る人物なのだが、いやあ、これがクールでシャープでミステリアスな美少年でおばちゃんビックリしたよ! あのときはまさかこんなよく喋る関西弁のお兄ちゃんだとは思わなかったよ!

 それから20年、多くのドラマや映画に出演してきたが、この「破門」は大阪が舞台で共演者もほぼ関西人ということもあり、ヨコの台詞回しがめちゃくちゃ自然なのが見どころ。二宮はぐーたらで、抜けてるところや情けないところもあるキャラだ。ヨコは、長年一緒にやってきた渋谷すばるから「そのまんまやな」と言われた、と対談で語っている。

 すばるはどこを見て「そのまんま」と言ったんだろう? ぐーたらなところ? いや、違うんじゃないかな。二宮の、文句を言いながらも結局ちゃんとやるところ。失敗もするけれど、悪びれずこだわらず、笑いにまぎれさせるところ。かっこつけないところ。お母さん思いなところ。そして何より、悩みを外に見せないところ。ヨコのすべてを知っているであろうすばるの「そのまんまやな」は、二宮のそういうところを見てのことだったんじゃないだろうか。

 現在は月9ドラマ「絶対零度」(フジテレビ)で警察官を演じているヨコは、これまでクールな役からコミカルな役まで、実に幅広い役柄を演じてきた。そんな中で、最も素のヨコに近いのが、この二宮役なのかもしれない。すばるの本意はわからないが、彼が言うなら間違いない、と思う。

 なお、この映画で銀幕デビューを飾ったのが、桑原の手下である木下ケンを演じた濱田崇裕(ジャニーズWEST)。出番はわずかだったけど、アクションシーンでは魅せてくれた。特に相手が出してきたナイフの刃をとっさに掴むところ! 刃を掴む場面は原作にもあり、原作ではそのあとで桑原から褒められているので、ぜひ小説で確かめていただきたい。また、木下はシリーズ6作『喧嘩』にも登場するので、こちらも濱田くんでジャニ読み推奨だ。

【ジャニーズはみだしコラム】

 好評のうちに最終回を迎えた二宮和也(嵐)主演「ブラックペアン」(TBS)。ニノ担さんたちの羨望を一身に浴びたのが、ニノ演じる渡海先生の相棒看護師・ネコちゃんこと猫田麻里だった。
 ネコちゃんを演じた趣里さんは、女優デビュー作でもジャニーズと共演している。2011年に放送された「3年B組金八先生ファイナル〜最後の贈る言葉」で3年B組の生徒・柴崎茜を演じたのが趣里さん。担任教師に恋をするという役だった。そして、このクラスに転入してきた問題児・景浦裕也を演じたのが岡本圭人くん(Hey!Say!JUMP)なのだ。
 圭人くんのお父さんである岡本健一さんも「3年B組金八先生」の卒業生。そして趣里さんのお父さんの水谷豊さんは「熱中時代」で小学校の先生を演じてブレイクした。「金八ファイナル」は、芸能人の2世であり学園ドラマの2世でもあるふたりの共演だったのである。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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