大矢博子の推し活読書クラブ
2018/08/22

左利きの「二宮和也」をあえて捕手に 「弱くても勝てます」は原作アレンジが新鮮

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 光の無い荒野を独りいざ行く皆さん、こんにちは。夏の高校野球も大阪桐蔭高校の優勝で幕を閉じました。金足農業のドラマティックな活躍にも盛り上がりましたね。相葉ちゃんの「熱闘甲子園」(朝日放送)を毎日楽しみにしていたファンも多いのでは? ってことで今回は予告通り、ジャニーズ出演の高校野球ドラマとその原作を紹介しますよ。

■二宮和也(嵐)・主演、中島裕翔(Hey! Say! JUMP)・出演!「弱くても勝てます」

「弱くても勝てます〜青志先生とへっぽこ高校球児の野望」(2014年、日本テレビ)は、小田原城徳高校(架空)の硬式野球部が舞台。勉強は素晴らしくできるが野球は下手くそな野球部の監督に同部OBの生物教師・田茂青志が就任、生徒たちに意識改革を促して弱いままでも勝てるチーム作りをする──というドラマだ。そこに、青志自身のトラウマだとか生徒間のロマンスだとか家庭の問題だとかが挿入される群像劇でもある。

 原作は、高橋秀実『「弱くても勝てます」開成高校野球部のセオリー』(新潮文庫)。実在する超有名進学校・開成高校の野球部を取材したルポルタージュだ。

 平成17年、東大合格者数日本一を誇る進学校・開成高校の野球部が、選手権大会東東京予選でベスト16まで進んだ。興味を惹かれて学校を訪れた筆者が驚いたことに、選手たちは異常なほど下手くそ。「エラーは伝統」とまで言い切る。ピッチャーは「逆上がりもできない」そうだし、外野手は「内野は打者に近いから怖い」と言う。おまけにグラウンドを使えるのは週に1回、3時間のみ。試験前は1ヶ月近く練習なし。なのに彼らは予選5回戦で強豪校に負けるまで、4試合中3試合をコールド勝ちで勝ち上がったのだ。え、なんで?

 本書はその開成野球部の監督や選手へのインタビューで構成されている。これが実に面白い。「苦手」と「下手」の定義の違いについて説明する選手がいたかと思えば、守備は文系・バッティングは理系という分析をする選手もいる。監督は監督で、グラウンドでやるのは練習ではなく「実験と研究」だと位置付ける。「えっと、今、野球の話をしてるんですよね?」と確認したくなるようなインタビューが続いて、つい笑ってしまうのだ。と同時に、煙に巻かれてうやむやの内に納得させられる妙なパワーもある。

 でも、確かにとても面白いんだが、ドラマ化となるとどうか。別に開成高校野球部が本当に強くなって甲子園に行くわけではないし、何か苦難を乗り越えるわかりやすい感動があるわけでもない。血も汗も涙も友情も絆も出てこない。いわゆる「ストーリー」がないのだ。だからドラマでは、その部分が大きく脚色された。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作のエピソードが各所にまぶされたオリジナルドラマ

 ドラマと原作の違い。これはものすごく単純で、野球の戦術にかかわる部分以外は、いっそ清々しいくらいすべてドラマオリジナルだ。苦学生が家庭の事情で退学したり、女子マネが部を牽引してたり(そもそも開成は男子校だ)、いじめの加害者と被害者が同じチームで再会したり、因縁のライバル校があったり、兄弟が強豪校にいたり、監督の青志が高校時代のトラウマを抱えていたりといったドラマティックな部分は一切、すべて、まるっきり、原作には登場しない。

 じゃあ原作はどこに? まず練習時間がとれない進学校であるという舞台。東大卒の同部OBが教師として着任し、野球部監督になるという設定。そして監督が「弱いままで勝つ」ために考えた戦術や練習法の数々などが原作に準じている。一方、人物はすべて創作だが、原作で紹介された監督や選手の言葉がセリフとして随所に登場することに注目。

 たとえば前述の「下手」と「苦手」の違いは、福士蒼汰演じる投手のセリフに使われていた。彼は頭も良くて金持ちで何の苦労もなくここまで来たので将来のために挫折を経験したくて野球をやっている、てなことをヌケヌケと言い放つが、これは原作では開成野球部OBが実際に語った内容だ。守備は文系・バッティングは理系という理論もミーティングの場面で話に出た。本郷奏多演じる一塁手の「部屋で素振りをする」と「バッターボックスは目立つ場所」というのは原作ではそれぞれ違う人物の発言だった。

 もちろん監督のセリフにも、原作の言葉がどんどん出てくる。現実の開成監督の言葉だけでなく、筆者である高橋秀実さんが考えたことも、ドラマでは監督のセリフとして登場した。だからドラマを見て原作を読むと、ドラマで聞いたセリフが順不同でポンポン出てきて楽しいぞ。「あ、これ山崎賢人くんが言ってたことだ!」「ここって間宮祥太朗くんの設定と同じじゃん」など、まるでクイズの答え合わせをしているかのような気分になる。こういう原作アレンジの仕方があるのか、と新鮮だった。っていうかこのドラマ、今見るとめちゃくちゃ豪華なキャストだな。

■左利きのニノ、野球未経験の裕翔くんに注目!

 さて、人物はすべて創作と書いたけど、はっきりしたモデルがいるのがニノと裕翔くんだ。ニノが演じる田茂青志監督のモデルはもちろん、開成野球部の青木秀憲監督。ただし高校時代にライバル校との試合でボロ負けしたことがトラウマ、というのはドラマオリジナルの設定である。

 このオリジナル部分で上手いなあ、と思ったのは、左利きのニノを捕手にしたこと。左利きってのは捕手に向かないのよ。盗塁を刺す時に右打者が邪魔になるし、本塁クロスプレーではミットが逆側になるからやりにくいのだ。なのに捕手をやっていた。それだけでチームが「野球をわかってない」ことが伝わる仕組みになっていたわけ。

 実際にはファンの皆さんならご存知の通り、ニノは野球経験者。少年野球チーム「リトルジャイアンツ」ではピッチャー経験もあって夢はプロ野球選手だった。さすがノックは様になってたし、ドラマ中盤でニノがバッティングピッチャーをやる場面は眼福だったよね。一方、裕翔くんはサッカー少年で野球は未経験。そんな裕翔くんが演じたのは、なんと部で唯一野球が上手いっていう選手だったからタイヘン!

 裕翔くんの役は、プロ入りしてゆくゆくはメジャーリーグでホームラン記録を塗り替えるのが夢というスラッガー白尾剛。だから勉強は捨てている。これは原作に登場する長江豊さん(取材当時3年生)がモデルだ。長江さんは東大から大リーグに行くという希望を語り、やはり野球に集中するため勉強は捨てていると言う(でも東大志望なんだ……これが進学校か)。ただ、プロ志望なのに進学校に来た理由はドラマと原作では異なるので、そこは原作でご確認を。

原作の部員たちがばらばらに再構成されたドラマにあって、このふたりだけはモデルとなった原作の人物をジャニ読みすることが可能だ。原作の青木監督はニノと同じくらい怒鳴ってる。毒舌ニノの芝居かと思いきや、青木監督もけっこう言うことがキツいのよ。その一方で、ニノが語った戦術をもっと詳しく説明してくれてる。原作の長江さんは裕翔くんよりもっと超然としてて、でも裕翔くんと同じくらいドリームを語ってる。ふたりを思い浮かべながら原作を読むと、さらに楽しめること請け合いだぞ。

【ジャニーズはみだしコラム】

 実話をもとにしたドラマといえば、この季節は「24時間テレビ 愛は地球を救う」(日本テレビ)内で放送されるスペシャルドラマにジャニーズが主演することが多い。ただ、それ以外で実話ものに多く出演してるのは誰か、調べてみた。目立ったのは錦戸亮くん(関ジャニ∞)だ。
 まず青春スポーツものとしては「がんばっていきまっしょい」がある。闘病記が原作の「1リットルの涙」と映画「抱きしめたい 真実の物語」の2作では難病のヒロインを支える相手役だった。
 亮ちゃんの名をファン以外にも広めたNHKの朝ドラ「てるてる家族」も実話をもとにしているし、同じくNHKの「トットてれび」では坂本九さんの役、現在放送中の大河ドラマ「西郷どん」では主人公の弟・西郷従道役。
 でも実在の人物の役でいちばん似合ってたのは、やっぱり「パパドル!」の本人役だと思うけど、どうかな?

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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