大矢博子の推し活読書クラブ
2018/12/26

亀梨和也主演「手紙」ドラマからカットされたエピソードが問いかけるもの

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 夢色まぶしい未来見てたあの日の皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラムも年内最後の更新です。この時期は音楽もバラエティもドラマも特番続き、「8時だJ」の大同窓会にカウコンではタキツバとFOUR TOPSが復活と盛りだくさんだけど、まずは亀ちゃんの歌声に滂沱の涙を流したこちらからだ!

■亀梨和也(KAT-TUN)・主演!「手紙」

 すでに映画化・舞台化もされている東野圭吾原作の『手紙』(文春文庫)が、このたび初めてテレビドラマとして登場した。12月19日にテレビ東京系で放送されたが、まだこれから放送される地域もあるので、あまり具体的には触れないでおこう。

 両親を早くに亡くした武島剛志・直貴の兄弟。直貴を大学に行かせたいと考えた兄・剛志は民家に盗みに入り、居合わせた住人を殺してしまう。服役した剛志から毎月直貴のもとに届く手紙。だが直貴は「強盗殺人犯の弟」であるがゆえに、進学も就職も、そして恋愛も、ことごとく道を閉ざされる。犯罪者の家族には幸せになる権利はないのか──。

 というのがドラマと小説に共通する設定だ。これまでの映画や舞台は原作からいろいろと改変・脚色されていたが、今回のドラマは、びっくりするほど原作通りだった。もちろん長い物語を2時間に収めるためカットされたエピソードは多いが、カットされた部分をうまく補うように人物配置や出来事の時系列が工夫され、結果として原作で重要な部分はすべて完全に網羅されていた。原作を変えているのに気づけば原作通りという、この脚本はすごいな! 原作ファンも納得のドラマだ。

 唯一、ドラマオリジナルのエピソードとして加えられていたのが、直貴が犯罪者の弟であるということがネットで拡散されるというくだりだ。原作が新聞連載されていたのは2001年から2002年にかけて。今、犯罪加害者の家族の問題を描くのに避けては通れないネットの影響を加えたのは、当然の脚色と言っていい。それも一場面だけで、原作のイメージを損なうような使い方ではなかった。全編から原作リスペクトを感じるドラマ化である。


イラスト・タテノカズヒロ

■カットされたエピソードが読者に問いかけるもの

 とは言うものの、実はカットされた部分にも、『手紙』という作品の極めて大事なエッセンスが含まれていたことには触れておかねば。重要な出来事や重要な登場人物は原作通りだったが、それ以外の〈特に重要ではない人々〉がかなりカットされていたのだ。たとえば直貴が一緒にバンドを組む仲間であったり、バイト先の人であったり。

 ドラマを見ると、直貴が受ける差別に胸が痛くなる。だが原作ではそれは少し緩和される。なぜなら、多くの人は決して直貴を露骨に差別したりはしないから。お兄さんと直貴は関係ない、家族を差別するのは間違いだ、自分は直貴を応援したいと考える、真っ当な道徳と正義感を持つ人が多いから。だが──これが大事なのだが、それこそが東野圭吾の狙いなのだ。

 多くの人は直貴を「えらいね」と称賛し、「たいへんだね」と同情し、「応援するよ」と声をかける。その気持ちに嘘はない。だが自分に火の粉が降りかかりそうになると、直貴を遠ざける。そしてそんな自分を恥じる。恥じるが、でも、やっぱり関わり合いにはなりたくない、自分からは遠いところでがんばってほしい──東野圭吾は、そんな〈自らの弱さに恥じ入りながら、言い訳をして直貴を差別する〉普通の人々を描き出す。そこにいるのは、「自分は差別なんかしない」と信じ込んでいる私たちの姿だ。

 原作『手紙』のテーマは、あからさまな差別の糾弾にとどまらない。被害者の遺族という怒って当然の立場の人から、恋人の家族、趣味の仲間、職場の上司や同僚、近所、通りすがりの人にいたるまで、さまざまな距離の人々が直貴のことをどう捉えるか、そしてそんな自分をどう思うかをも描いているのである。

 悲しい、残念なことだけど、私たちが大好きなアイドルグループのメンバーの名前が犯罪や不祥事で取り沙汰されるということが、これまでに何度かあった。残されたメンバーが、世間に批判され、露出を減らされ、それでも信頼を回復するべく頑張る姿を、私たちは目の当たりにしてきた。そんなジャニオタの私たちは、この物語のテーマをしっかりと受け止められるはずだ。

■アイドルオーラを消した亀ちゃんの演技と歌に注目!

 もうひとつ、原作とドラマには大きな違いがある。原作では直貴の心の中が細やかに描写されるが、ドラマでは原作のセリフだけが使われ、内面描写が言葉にされる場面はほぼなかったのである。つまり直貴の葛藤や悩みが視聴者に伝わるかどうかは、すべて亀ちゃんの演技にかかっていたのだ。そしてその重すぎる課題に、亀ちゃんは見事に応えた。

 何に驚いたって、亀ちゃんが完璧にアイドルオーラを消していたこと。「あれっ、亀ちゃん太った?」と思ったほどもっさりしてて覇気のない青年がそこにいた。表情も乏しい。その乏しい表情で、苦しみと、わずかばかりの希望と、けれどそれが断ち切られる諦めとを、演じ分ける。内面を言葉で表現しないというドS脚本に、感情を露わにしないというドS演出。これまでクールだったりかっこよかったりコミカルだったり妖怪人間だったりというキャラの立った役が多かった亀ちゃんが、ここまで自分を消した静かな芝居ができるようになっていたなんて!

 特に圧巻だったのが歌だ。ドラマでは2回、亀ちゃんが「見上げてごらん夜の星を」を歌う場面がある(原作ではビートルズの「イマジン」)。カラオケの場面と、ラストシーンだ。最初に聞いた時、うわっ、と思った。KAT-TUNの亀ちゃんの歌い方と違うんだもの! 原作の直貴はプロデビューの声がかかるほどの歌唱力の持ち主という設定で、亀ちゃんはすでにプロ歌手なんだからそこは楽勝よね、と思って見ていたのだが、まさか「直貴の歌い方」を見せてくれるとは。それはアイドルの、ジャニーズの、KAT-TUNの亀梨和也ではなく、まぎれもなく直貴だった。

 その亀ちゃんならぬ「直貴の歌」が、ラストシーンで炸裂する。いやもう、泣いた泣いた。あの演出はずるいわ反則だわ泣くわ。原作のその場面は、涙で声が出ない、という表現にとどまっている。が、ぜひその部分を亀ちゃんでジャニ読みしてほしい。脳内で、亀ちゃんに歌わせてほしい。決して順風満帆ではなかったKAT-TUNのこれまでと、今年(2018年)のお正月から3人で再スタートした新生KAT-TUNのこれからを思いながら。

【ジャニーズはみだしコラム】

 以前、「ラプラスの魔女」の回でも少し触れたが、これまでもジャニーズは何作か東野圭吾作品に出演している。
 ドラマでは、「トキオ」(2004年、NHK)では国分太一が主演し、その息子役で櫻井翔が共演。血縁役での共演は、「流星の絆」(2008年、TBS)主演のニノと弟の錦戸亮、というのもある。連ドラのゲスト出演でいえば、ドラマ「ガリレオ」(2007年、フジ)に犯人役として香取慎吾が登場した回が印象的だった。
 映画では、初登場が「プラチナデータ」(2013年、東宝)のニノと意外と遅い。だがその後、「疾風ロンド」(2016年、東映)の大倉忠義、「ナミヤ雑貨店の奇蹟」(2017年、松竹)の山田涼介、「ラプラスの魔女」(2018年、東宝)の櫻井翔、と東野作品のジャニーズ主演率がグンと高くなった。
 そして年明け早々に控えているのが木村拓哉主演の「マスカレード・ホテル」。春には玉森裕太主演の「パラレルワールド・ラブストーリー」の公開が予定されている。もちろんここで取り上げるのでお楽しみに!

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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