大矢博子の推し活読書クラブ
2019/01/09

加藤シゲアキ版「犬神家の一族」で実感 金田一とジャニーズ〈継承〉の魅力

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 僕らの人生(たびじ)には見えない紐がある皆さん、こんにちは。カウコンのタキツバとそのバックで踊るFOUR TOPSに滂沱の涙が未だ枯れぬ年明けですが、ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラムでは、昨年のクリスマスイブまで遡ります。金田一さん、事件ですよ!

■加藤シゲアキ(NEWS)・主演、薮宏太(Hey! Say! JUMP)出演!「犬神家の一族」

 昨年12月24日にフジテレビ系で放送されたスペシャルドラマ「犬神家の一族」。もちろん原作は横溝正史の同名小説『犬神家の一族』(角川文庫)だ。読んだことなくても、見たことなくても、湖から突き出る2本の足と白マスクはみんな知ってる有名作。ただその二大名場面こそが、原作からの改変部分だった──というのはこのコラムの第7回、稲垣吾郎版「犬神家の一族」に詳しく書いたのでそちらをご覧いただくとして。まずはあらすじからいこう。

 昭和2X年、信州の富豪・犬神佐兵衛が他界。彼には3人の妾が産んだ娘がひとりずついる。彼女たちにはそれぞれ息子があり、遺産の行方が注目された。ところが、長女・松子の息子・佐清(すけきよ)が復員するのを待って公開された遺言状には、遺産は佐兵衛の恩人の孫娘・野々宮珠世に贈られるとあって一同は驚愕。しかも3姉妹の息子のうちの誰かと結婚するという条件があって……。

 というのが原作・ドラマの両方に共通する基本設定だ。さらに復員したスケキヨが顔に怪我をしたという理由でマスクをかぶっているため、本物なのかどうかという疑惑が付きまとう(以上、第7回と同じ説明にて失礼)。ここで起きた連続殺人事件に、名探偵・金田一耕助が挑む。金田一を演じるのがシゲ。そして薮くんが地元の刑事のひとり(原作には該当人物なし)として登場した。


イラスト・タテノカズヒロ

■シゲ版金田一、原作とここが違う

 これまでの映画や2004年の稲垣版と比べると時間が短かったせいか、今回の「犬神家の一族」は各所に改変が見られた。まず、佐兵衛の次女・竹子の娘である小夜子の存在がまるっとカットされていたこと。さらに2番目の殺人の段取りが原作と違う。ここはむしろ1976年の市川崑監督・石坂浩二主演の映画「犬神家の一族」の演出に近かった。

 他にも下男の猿蔵が原作にはない行動をとる箇所が複数あったり、人物の設定が変えられていたり、謎の復員兵が市内の宿屋に泊まっているくだりがなかったりと、〈殺人そのもの〉と〈それに直接関係する手がかり〉以外は大胆に編集された感がある。その結果、とてもテンポが速くなり、〈ダイジェスト犬神家〉っぽくなってしまったのは、原作ファンとしてもシゲのファンとしても少々残念だった。金田一耕助の見せ場が随分減っちゃったんだもの。あと30分あればなあ。

 特に、佐兵衛翁のエピソードに端を発する犬神家が呪われた一族であるくだりを全カットして、なんだかいい話にしちゃったのには驚いた。シゲや薮くんが出るということで、若い視聴者が多いだろうと制作側が気を使ったのかもしれないが、一族の爛(ただ)れた血の呪いこそ横溝ワールド。真相がわかったときのゾクリとする快感を、ぜひぜひ原作で味わっていただきたい。

 そして金田一の造形もこれまでと少し違っていた。そもそも金田一耕助というのは古今東西の名探偵の中で、最も後手にまわる探偵である。連続殺人を止められず、「しまった!」だの「そうだったのかぁっ!」だのといきなり叫んで駆け出すこと多々あり。普段は飄々としてコミカル、手がかりを見つけたら興奮して吃音は出るしフケは飛ばすし、けっこうオタオタしてる。原作では、喜怒哀楽を素直に出す自然体の青年なのだ。

 ところが今回は、そういったザ・金田一的言動がほとんどなかった。死体にビビるのは原作通りだし、宿屋のシーンではキュートなシゲを堪能したけど、基本的に金田一シゲは落ち着いていた。情報をきちんと整理して警察(と視聴者)に伝え、推理は沈思黙考、「謎解きはここからです」「真実を皆さんと一緒に解き明かしたいと思います」などなど、いかにも名探偵然としている。もしかしたらこれが今回最大の原作との違いかもしれない。そしておそらくそこに、シゲ版金田一の工夫がある。
 

■ジャニーズと金田一耕助に共通する〈継承〉

 これまで金田一耕助は錚々たる俳優たちが演じてきた。同じ小説が何度も映像化されれば、当然そこには作り手の個性が出る。映像作品の金田一は、多くの先人たちの金田一耕助を踏襲したり打ち壊したりしながら、その俳優だけのオリジナルな金田一像を作り上げてきたのだ。

 歴代金田一の中でいちばん古いのはスーツ姿にソフト帽の片岡千恵蔵。最近では池松壮亮、吉岡秀隆が記憶に新しい。狂気を孕んだ長谷川博己も印象的だった。中尾彬はデニムの上下にサングラス、中井貴一はハンチング帽にメガネ、渥美清は麦わら帽子の庶民派、西田敏行は人情派、すぐに居眠りしちゃう役所広司、小野寺昭は気弱なモテ男、愛川欽也は昆虫好き。他にも高倉健、上川隆也や豊川悦司、鹿賀丈史、片岡鶴太郎などなど多くの俳優が様々なタイプの金田一を演じ、女性の助手を連れているパターンもけっこうあった。その中で、原作イメージに最も近く、金田一の〈決定版〉となったのが、映画の石坂浩二とドラマの古谷一行だ。そしてこのふたりの様式を踏襲しつつ、「犬神家」のストーリーが原作に最も忠実だったのが稲垣吾郎版である。

 今回のシゲは、見た目は〈決定版〉を受け継ぎながら、キャラクターはキュートにして知性派という演出だった。原作を読めば、シゲがどう工夫してどうアレンジしたのか、違いがはっきりわかるぞ。ゴロちゃん版と見比べるのも楽しい。ふたりとも左利きだとか、スケキヨの文字を書く順番が逆だとか、ゴロちゃんがアワアワしながら言ったセリフをシゲはさらっと言ってるとか。

 先輩の功績を継承すると同時に自分だけのオリジナリティを出す──それはジャニーズの得意技だ。先輩の歌やダンスをちゃんと覚えてる後輩たち。それだけじゃない。フォーリーブスがやった歌番組の司会。たのきんが掴み取った「金八先生」の枠。ヒガシがパイオニアとなった大河ドラマの主役。冠バラエティの最初の成功例を作ったSMAP。櫻井くんが切り開いたキャスターという仕事。ゴチの椅子は太一くんからケンティにつながった。〈ジャニーズ枠〉は揶揄されることもあるけど、どれも最初のひとりがちゃんと結果を出し、実績を作ったからこそ、後輩に道が開かれたのだ。〈継承〉はジャニーズ最大の強みであり魅力だ。

 2004年、金田一耕助という一大牙城に稲垣吾郎が道をつけてくれた。ゴロちゃんの金田一シリーズはとても素晴らしかった(求むDVD化!)。その後、横溝原作ではない企画ものだけど、長瀬智也と山Pが金田一を演じている。それがシゲへと引き継がれたのだ。どうか、この昭和を代表する名探偵がジャニーズで今後も継承されていきますように。資格は充分だよね、だってゴロちゃん・長瀬・山Pだけでなく、堂本剛から松本潤・亀梨和也・山田涼介へと継承された金田一耕助の孫たちもジャニーズにいるんだから。
 
【ジャニーズはみだしコラム】

 コラム本編では金田一耕助にしか触れなかったが、実はかつて、別の役で「犬神家の一族」に出演した(元)ジャニーズがいる。「犬神家の一族」の決定版であり、日本映画の金字塔とまで称される1976年の石坂浩二主演の映画で、初代ジャニーズのあおい輝彦が佐清役を演じているのである。
 佐清は代々イケメンが演じるのがお約束なので、金田一だけでなくこちらも、いや、こちらこそジャニーズが継承すべきではないのか──と思っていたら、ありましたありました。昨年11月、新橋演舞場の新派公演「犬神家の一族」で、関西ジャニーズJr.出身の浜中文一くんが佐清役をやりましたよ!
 ただ、浜中くんの新派出演を報じる記事、どれも「佐清と××の2役を演じる」って書いてるんだけど、それネタバレじゃないのか……?

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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