大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2019/03/06

役者に専念した生田斗真がついに「アイドル」に! 「いだてん」の楽しみ方

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 スポーツを愛し、スポーツに愛された元気の権化の皆さん、こんにちは。このコラムはジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するものなんですが、連載開始以来初めて、原作のないドラマを取り上げますよ。だってこれを書かずにはいられないでしょう、斗真が大河ドラマではっちゃけてるんだから! これを読めば斗真演じる三島弥彦がもっとよくわかる、という本も併せて紹介します。

■生田斗真・出演!「いだてん」(NHK)

 今年の大河ドラマは宮藤官九郎脚本「いだてん〜東京オリムピック噺」。斗真は、中村勘九郎演じる金栗四三とともに日本初の代表選手として1912年のストックホルムオリンピックに出場した三島弥彦を演じている。薩摩士族の家系で父は元警視総監、長兄は後の日銀総裁という家柄。本人は学習院から東京帝大に進み、数々のスポーツに才能を発揮した。完全無欠のぼんぼんである。

 ドラマでの三島弥彦初登場は第1回、三島邸での園遊会に野球のボールを追いかけて弥彦が飛び込んでくる場面だ。そこから野球のユニフォームを着たメンバーが次々と乱入し、ビールは飲むし嘉納治五郎を突然胴上げするしと大騒ぎ。「明治の世にこんなにウザくてチャラい輩がいるわけないとお思いでしょうが、残念ながら実在したんです」というナレーションには笑ってしまった。

 この暑苦しいウェイ系パリピが天狗倶楽部である。整列した上半身裸の天狗倶楽部員たちを従え、弥彦が「我らはスポーツを愛し、スポーツに愛され、ただ純粋にスポーツを楽しむために活動する元気の権化、T・N・G!」と叫ぶ。天狗の頭文字でTNGだ。振り付きで「奮え、奮え、てーんーぐ! てんぐ、てんぐ、ててんのぐ!」と唱和し、最後は決めポーズ。この「奮え」が「フレー」の語源だという。

 あまりにはっちゃけた場面にSNSでも大いに盛り上がったが、ジャニオタの皆さんなら気付いたはずだ。「ててんのぐ!」の決めポーズ、「シェー!」をかっこよくやったらこうなる、という感じのあのポーズには見覚えがある。カウコンでタキツバのバックをFOUR TOPSが務めたとき、「Venus」の歌い出しで斗真がとった謎のポーズだ。これだったのか!


イラスト・タテノカズヒロ

■天狗倶楽部と三島弥彦を知るならこれを読め!

 天狗倶楽部というのは、ひとことで言えば早稲田や慶応、東大といったエリートたちによるスポーツ同好会だ。創設者は押川春浪。押川は日本SF小説の祖と呼ばれる作家にして編集者で、その人気は夏目漱石に並ぶほどだったという。ドラマでは武井壮が演じている。

 この押川春浪を中心に天狗倶楽部とその周辺の人物伝をまとめた本がつい先日、復刊された。SF作家で明治ものの著作も多い横田順彌の『快絶壮遊〔天狗倶楽部〕明治バンカラ交遊録』(ハヤカワ文庫JA)だ。天狗倶楽部の自由闊達な活動が実に楽しい。弥彦が生きた明治の空気を味わえる。

 ただ、本書は明治文壇の交友録でもあり、当時の作家たちの様子がメイン。作家ではない弥彦については第1章でオリンピック予選会の様子と、第6章に相撲大会の助っ人に弥彦を呼んだという記述があるだけなので、もっと弥彦自身について知りたい人には、尚友倶楽部編集の『日本初のオリンピック代表選手 三島弥彦─伝記と史料─」(芙蓉書房出版)がいい。生い立ちから、本人の日記や対談、インタビューなどが収められている。

 ドラマではストックホルムに旅立つ弥彦と母・和歌子の涙の場面があったが、この本によれば弥彦は庶子だったそうだ。民法で一夫一婦制が決められたのは明治31年。それ以前は、後継の必要な上流階級を中心に側室を置くのは珍しくなく、妾腹の子どもたちも分け隔てなく和歌子が育てたという。それを知ってドラマを見返すと、親の愛に飢える弥彦や新橋駅での涙がひときわ深いものに感じられる。

 もう一冊、小説から木内昇『球道恋々』(新潮社)を推しておこう。押川春浪を中心に描いた明治野球小説だ。弥彦は登場しないものの、この中にオリンピック予選会が行われた羽田運動場の話が出てくる。ドラマで見たあれか! というのに小説で出会うと、俄然物語が身近に感じられるもの。これを機にぜひ明治小説に手を伸ばしていただきたい。前述の横田順彌には天狗倶楽部が火星人と戦ったり恐竜と戦ったりするシリーズもあるぞ(『火星人類の逆襲』『人外魔境の秘密』ともに新潮文庫・品切)。

■ジャニーズであることの強みを前面に出した斗真天狗

 さて、斗真に話を戻そう。これまで斗真はいろんな役をやってきたが、ここまでキラキラした、顔も家柄も性格もいい正統派二枚目役は光源氏(映画「源氏物語 千年の謎」2011年・東宝)以来だ。だがそれだけでなく、おそらくはスタッフも承知の上で、彼がジャニーズであることを最大限に活かしている。

 三島弥彦は学生や若者の間の人気が高く、押川春浪が主宰した雑誌「冒険世界」の人気投票企画で〈痛快男子十傑〉の運動家部門1位に選ばれている。ドラマでもその雑誌が登場し、上半身裸でポーズを決める斗真の写真が何度も放送された(眼福)。弥彦の現れるところにはファンの女の子たちが必ずいて、TNGのロゴ入りうちわを掲げている。アイドル雑誌を読んで応援うちわを持ち自担を追いかける俺たちのパイセンが大河に! みんな胸の高さでうちわを持っている中、ひとりだけ興奮して高く振り上げる女学生がいたのを私は見逃さなかったぞ。それ、ダメだからね?

 どれもこれも、完全にジャニーズパロじゃないか! と思った? ところが必ずしもそうじゃないから面白い。弥彦本人が裸でポーズを決める写真は多く残っているし、アイドルの名前やイラストをうちわにするというのは江戸時代からある文化だ。贔屓の役者の浮世絵をうちわに仕立てたのが始まりだという。アイドルの追っかけももちろん江戸時代からいたし、さらにTNGというイマドキのアイドルみたいな略語も史実通りである。つまり、弥彦を巡る史実がそのまま今のジャニーズに重なるのだ。

 私が感動したのは前述した放送第1回の、天狗倶楽部のデモンストレーションの場面だ。天狗倶楽部のセンターで踊る斗真。これはファンの欲目でもなんでもなく、ひとりだけ際立ってポーズのキレがいい。そりゃそうだよ、何年Jr.で踊ってきたと思ってるんだ。CDデビューせず役者に専念した斗真がセンターで踊ってるというそれだけで、なんか泣きそうになったぞ。

 Jr.を卒業し、役者一本に絞ってからの斗真は「アイドル」として扱われる機会が減った。その斗真が「いだてん」では完全なアイドルとして君臨している。それが嬉しい。だが第10回以降、弥彦を試練が襲うはずだ。天下無敵のアイドルだった弥彦が初めて挫折を味わい、大きな変化を見せることになる。そこからは役者・生田斗真の見せ場だ。アイドルから次の段階へのメタモルフォーゼ。先ほど私は、弥彦を巡る史実がそのまま今のジャニーズに重なる、と書いたが、言い直そう。弥彦を巡る史実がそのまま今の生田斗真に重なるのである。

【ジャニーズはみだしコラム】

 3月3日放送の「いだてん」第9回は、シベリア鉄道を舞台にストックホルムまでの旅路を描いていた。この回の演出を担当したのが大根仁氏。実はかなり以前に、大根氏と斗真は一緒に仕事をしている。2006年のドラマ「アキハバラ@DEEP」(TBS)だ。石田衣良の同名小説を原作としたこのドラマに、斗真は主人公グループのひとりとして登場。同じ主人公格の仲間に風間俊介がいた(ちなみに星野源もいた)。
 大根仁とジャニーズといえば少年隊の冠番組「少年タイヤ」(2001〜02、フジテレビ)と、その後番組の「演技者。」(2002〜04年)「劇団演技者。」(2004〜06)ははずせない。ジャニーズと劇団がコラボし、ざまざまなジャニーズが出演したシリーズだ。「演技者。」はDVDになっているので未見の人は要チェック。斗真の主演作もある「劇団演技者。」はソフト化されないのかな?

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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