大矢博子の推し活読書クラブ
2019/04/24

亀梨和也主演「ストロベリーナイト・サーガ」原作のキャラとは全然違う!? その真相は?

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 風に揺れた果実をただ守りたい皆さんと、今日も超ハッピーみんなバリハピな皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、2019年春クールドラマの先陣を切るのは、こちら。

■亀梨和也(KAT-TUN)・主演、重岡大毅(ジャニーズWEST)・出演!「ストロベリーナイト・サーガ」(2019年、フジテレビ)

 原作は誉田哲也の〈姫川玲子シリーズ〉で、『ストロベリーナイト』を皮切りに、長編『ソウルケイジ』『インビジブルレイン』『ブルーマーダー』『硝子の太陽R』『ノーマンズランド』と続き、合間に短編集の『シンメトリー』『インデックス』、スピンオフの『感染遊戯』が刊行されている(『ノーマンズランド』のみ光文社、他は光文社文庫)。

 主人公はノンキャリアながら27歳で警部補まで昇進した姫川玲子。警視庁捜査一課殺人犯捜査第十一係で姫川班を率いる。女性であるということで警察内で敵を作りがちだが、行動力とタフな精神力、天性の直観と飛躍した思考で真相に辿り着く手腕を認める者も多い。特に姫川班の刑事たちには慕われている。本シリーズは組織内での対立や競争を描く警察小説であり、猟奇殺人を扱ったトリッキーなミステリであり、社会問題を背景に据えた犯罪小説でもある。

「ストロベリーナイト・サーガ」初回の2時間スペシャルは『ストロベリーナイト』、第2回・3回は『ソウルケイジ』がそれぞれ原作だった。今後は『インビジブルレイン』『ブルーマーダー』という長編主体の映像化となるようだ。第2回まで放送された範囲ではストーリーそのものに大きな改変は見られず、基本的には原作に忠実な展開だった。

 ただ、カットされたり簡略化されたりしたエピソードはある。たとえば、初回での姫川の回想場面だ。なぜ彼女が刑事を目指したのかについて、原作では自らが被害者となった過去の事件とその顛末にページがたっぷり割かれているのに対し、ドラマではかなりの駆け足だった。これは『ブルーマーダー』を原作にした回で改めて語られるからだろうと予想しているが、『ストロベリーナイト』の裁判シーンは屈指の名場面(私は読むたびに涙ぐんでしまう)なので、ぜひ読んでほしい。性犯罪の捜査・公判でのセカンドレイプについて、共感し励まされる読者は多いはず。

 さて、ストーリーが原作に忠実な一方で、その他のところで大きな改変がひとつある。亀ちゃん演じる姫川班の巡査部長、菊田和男のキャラクターだ。ご存知のように、このシリーズはかつて竹内結子主演でドラマ化、映画化されているが、そのときもやはり、ストーリーは原作に添いながら菊田のキャラクターだけは大きく変更されていた。


イラスト・タテノカズヒロ

■亀ちゃん演じる菊田和男刑事、原作はまるで別人!

 竹内版で西島秀俊が演じた菊田は姫川班結成時からの所属。性格は寡黙でクール、姫川に恋心を抱いているがそれをあまり表には出さない優秀な刑事という設定だった。今回のドラマで亀ちゃんが演じる菊田は、放送第1回に新たに姫川班に配属になった新入りで、まだ姫川がどんな人物なのか距離をとって探っている状態だ。菊田自身の性格や来歴も、まだ明らかにはされていない。

 では原作の菊田はどんな男か。これがもう、全然違うから! 原作ではゴリラ並みの頑健な肉体を持つ体力自慢。周囲からもゴリラだのゴリ男だのと呼ばれている。性格は極めて単純明快、直情径行。ただし恋にはめちゃくちゃ不器用。姫川への思いは周囲にはダダ漏れで、姫川も告白を待っているのに、照れまくって口にできない。他の刑事が玲子にちょっかいを出すと嫉妬が露骨に態度に出て、周囲の仲間に抑え込まれる。刑事として活躍する場面もほぼなく、はっきり言って原作の菊田は、コメディリリーフだった。

 だが、それは『インビジブルレイン』まで。そんな菊田の存在が、長編第4作の『ブルーマーダー』でクローズアップされるのだ。『インビジブルレイン』の最後で姫川を取り巻く相関図は大きく変わるのだが、その後を描いた『ブルーマーダー』に最初に菊田が登場した場面では、思わず「ほぇっ!?」と変な声が出たもん。さらにクライマックスではけっこうな見せ場も用意されている。初回の亀ちゃん初登場シーンで彼が何をしていたか、あれはたぶん伏線だ。

 これは竹内版では映像化されておらず、今回のドラマが初めての映像化となる。第2回までは「寡黙だがいいヤツ」といった立ち位置にとどまっている菊田が、姫川役の二階堂ふみと並んでW主演と銘打たれているのは、この『ブルーマーダー』が控えているからだろう。ただし、菊田の設定が原作と異なる以上、『ブルーマーダー』までの姫川と菊田の関係についてはドラマオリジナルの仕込みが必要となる。今後、原作にはない姫川と菊田の場面は増えるはず。しまった、本欄でとりあげるのは、そこまで話が進んでからにした方がよかったなー。もう1回やるか。

■亀担としげ担は、この原作を読め!

 もうひとつ、忘れちゃいけないのは、初回放送で姫川班の若手刑事・大塚真二を好演した、しげちゃんことジャニストの重岡大毅だ。基本的に菊田以外は原作通りの設定になっているが、中でも大塚は鮮烈な印象を残した。まっすぐで明るくて熱心な好青年。初回放送では菊田より出番が多く、笑顔もメンチカツ頬張るのも可愛い……と撃ち抜かれ、いやでも大塚ってこのあと……とストーリーを思い出してシュンとしてしまった。

 初回だけなんて寂しいなあ、と思っているであろうしげ担さんたちに薦めたいのが、短編集『インデックス』所収の「女の敵」である。これは『ストロベリーナイト』のあとで姫川班のメンバーが墓参りに行き(誰の墓かは書かないけど、わかるね?)、そこで姫川は大塚と初めて組んだ事件のことを回想するという話。まだ所轄の捜査員だった大塚巡査は、一生懸命に姫川についていく。ぜひこの短編の大塚をしげちゃんでジャニ読みしてほしい。ぴったりだから。

 この「女の敵」には姫川と菊田の初対面シーンも描かれている。セリフはほとんどないが、最初から菊田が姫川を守ろうとしていたことがわかるエピソードが登場。また、同じ『インデックス』所収の「闇の色」にも菊田が登場する。こちらは『ブルーマーダー』より後の話だが、いやあ、この登場の仕方がすごくいいのよ! 『ブルーマーダー』をドラマ化するなら、「闇の色」のこの場面を最終回にしてもいいんじゃないかってくらいの胸熱の場面なのだ。だがそこで胸熱になれるのは、ここまでの菊田と姫川の関係を知っているがこそ、である。

 前段で私は、〈姫川玲子〉シリーズは警察小説でありミステリであり犯罪小説であると書いたが、もうひとつ、姫川を取り巻く人々の群像劇でもある。原作の菊田は、確かに前半はコメディリリーフ的役割だったが、次第にその立ち位置を変えた。ひとりの人物がシリーズの中で変わっていく──それを「ストロベリーナイト・サーガ」の亀ちゃんが、これから体現していくのかもしれない。今は何かと竹内版と比較されがちだが、物語が『ブルーマーダー』に辿り着く頃には、まったく新しい〈姫川玲子シリーズ〉になっているはずだ。

 なお、著者の誉田哲也さんはけっこう遊び心があるようで、『感染遊戯』に西島、竹内、武田という名の捜査員を出している。名前だけの登場だが、前作のドラマで主要キャストを演じた俳優たちから取ったことは明らかだ。それと別に、『ソウルケイジ』には「亀梨」が登場する。登場人物ではなく、KAT-TUNの、アイドルの「亀梨」としてその名前が出てくるのだ。のちにその作品に亀ちゃんが出演するなど予想もしてない時代の作品だが、これも縁というやつか。ぜひ探してみていただきたい。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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