風間俊介主演「おしい刑事」で炸裂した「風間ワールド」4話で終了は少なすぎ!
焦りや不安の中で小さな自分がもがいてる皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラムですが、春クールのドラマは出揃ったと油断してました。まさかNHKが令和1発目のプレミアムドラマにこんな爆弾を用意していたとは……!
■風間俊介・主演!「おしい刑事」(2019年、NHK BSプレミアム)
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- おしい刑事
- 価格:748円(税込)
原作は藤崎翔の『おしい刑事』『恋するおしい刑事』(ともにポプラ文庫)。刑事の押井敬史が、その並外れた推理力で事件を解き明かすも、なぜかいつも最後の最後で犯人を間違えてしまう。でもって横から別の刑事に手柄を持って行かれるというユーモアミステリだ。押井とバディを組むのは、『おしい刑事』ではチャラい青年刑事・横出、『恋するおしい刑事』では女性刑事の灰田である。
ドラマは現在第2話まで放送されており、会社会長宅の火災を扱った第1話は『おしい刑事』所収の「おしい刑事参上」、第2話の韓国料理店での殺人事件は『恋するおしい刑事』から「おしい刑事の国際交流」をそれぞれ原作にしている。予告編を見た限りでは、第3話は『おしい刑事』最終話「おしい刑事よ永遠に」のようだ。
……だめだ、ここまで頑張って真面目に書いてきたけど限界だ。このドラマ、面白すぎるでしょ! 何度声出して笑ったことか。かざぽんワールド炸裂するにもホドがある。いやはや、よくぞこの押井にかざぽんをキャスティングしてくれた。ありがとうNHK。私の受信料がかざぽんのインバネスになるのなら惜しくない。惜しくないぞ!
おっと、先走った。原作を紹介するのが目的のコラムなんだから、かざぽんの話はあとで(たっぷり)するとして、まずは原作とドラマの違いを見てみよう。基本的に事件の内容とその謎解きは原作に則っている。ただドラマにはオリジナルの設定が加えられており、押井は過去に政治家がらみの事件で何か失敗したらしいこと、同僚の灰田には妹を亡くした経験があるらしいことが、それぞれほのめかされている。第3話までは小説を原作にして、最終回となる第4話(ちょっと少なすぎませんかね)では、おそらくそのオリジナル設定が前面に出てくるのだろう。
他に、押井が広報課に飛ばされていたという設定や、灰田が最初から刑事課にいるあたりも原作とは異なる。だがそれらは瑣末と言っていい。原作で何より大事な要素がしっかり生かされている点に注目願いたい。それは「多重解決」だ。
イラスト・タテノカズヒロ
■笑いの陰に隠された、素っ頓狂にして緻密な謎解き
前述したように、このシリーズはまず押井が推理し、犯人を名指しする。けれど実はそれが間違いで、別の人物が真犯人を指摘する(作品によっては犯人が自ら明かす)という二段構えになっている。小説もドラマ同様コメディ仕立てなので、つい「あははは」と笑って流してしまいがちだが、実はこの構成、作者は常にふた通りの推理──しかも説得力のある推理を考えなくてはならず、けっこうタイヘンなのだ。
多重解決と言えば、ジャニーズファンなら思い出す人もいるだろう。この連載第1回で取り上げた、麻耶雄嵩原作・相葉雅紀主演の「貴族探偵」(2017年、フジテレビ)がまさに多重解決モノだった。武井咲演じる高徳愛香がまず推理して犯人を指摘する。だがそのあとで相葉ちゃん演じる貴族探偵──の使用人たちが高徳の推理を否定し、別の推理で真相を解き明かす。あれと同じ構造なのである。
しかも、どうしても説明がちになるのは避けられない多重解決モノにあって、この原作小説『おしい刑事』はその説明がとてもわかりやすく親切なのが特徴。ドラマを見ていて気づいたのだが、原作に存在する伏線がいくつか省略されていた。ぶっちゃけこのミステリの真相ってかなりバカ……あ、いや、えっと、素っ頓狂なのだけれど、原作では、豊富なヒントと親切な説明でその素っ頓狂さをちゃんと納得させてくれるのである。
ドラマは全4回(いや、だから少なすぎませんかってば)ということで、残念ながら原作のすべての短編は網羅されない。だがそれは、ドラマ化されなかった短編をかざぽんでジャニ読みする楽しみが残されているということでもある。放送分の伏線の確認と併せて、ぜひ原作をお楽しみいただきたい。
中でも「これは絶対映像向きだろ!」と思ったのが、『恋するおしい刑事』所収の「おしい刑事と雪山連続殺人」である。文章より映像で見せた方が効果的なトリックなのだ。小説だと言葉で説明するしかないのだが、映像なら何も言わずともさりげなくヒントが出せる、というタイプの趣向。NHKさん、続編お願いします。
■犯人でもサイコパスでもないかざぽんを堪能せよ!
さあ、お待ちかね、かざぽんだ。ちょっとこのドラマのかざぽん、愛くるしすぎませんか。35歳の妻子持ちつかまえて愛くるしいってのも変だけど、そう言うしかないんだもの。もう全方位に振り切ってる。表情がくるくる変わる。絶賛風間劇場。炸裂風間ワールド。かざぽんの切れ芸が見られるのは「おしい刑事」だけ!
最近でこそ、バラエティで軽妙なトークを繰り広げるかざぽんを目にする機会が増えたけれど、もともとは斗真やハセジュン同様、俳優一本でやってきたかざぽんである。そのほとんどが脇役だった。しかも陰でいじめを主導した上に母親を刺したり、人の心の中が見えて人間不信になったり、親友の妹を殺した少年Aだったり、人を刺殺して松潤が弁護したり(「おしい刑事」の脚本は「99.9―刑事専門弁護士―」と同じ宇田学氏)、母親を刺したり(18年ぶり2度目)と、とにかく犯人役や狂気を孕んだ役や鬱屈した役が多かったのだ。
それが今回は主役である。しかもコメディである。何に感動したって、かざぽんが、犯人じゃないんですよ! サイコパスでもないんですよ! もちろんこれまでの数々の狂気的な役はその卓越した演技力を買われてのことではあるけれど、あまりにその印象が強烈で、イメージが固定されていた感は否めない。でもこの「おしい刑事」でかざぽんはまちがいなく喜劇俳優としても評価されるはずだ。でもね、ファンはとっくに知ってるよね。サイコパスや鬱屈した役より、押井の方がずっとかざぽんっぽいって。
押井は確かに推理をはずす。そういう意味では、捜査の主役ではない。けれど結果として必ず真犯人が逮捕される。「押井といれば真犯人を逮捕できる」ということを仲間の刑事は知っている。だから周囲は押井を前線に押し出す。押井は脇役のような主役なのである。脇役で実績を積んできたかざぽんにとって、Jr.ではいじられキャラだったかざぽんにとって、この押井という「周囲に支えられた脇役のような主役」は、まさにハマり役だと思わない? あとはドラマオリジナルの展開で、押井が人を刺したりしないことを祈るだけだ。
最後に、個人的に最も感動した場面を。押井がかつて容疑をかけた政治家を演じるのが鶴見辰吾。かざぽんと鶴見辰吾のツーショットって、「3年B組金八先生」の第1シリーズと第5シリーズのメイン生徒じゃありませんか! 中学3年で同級生を妊娠させた宮沢保と、中学3年で母親を刺してしまった兼末健次郎の邂逅ですよ! いやもうおばちゃん感無量。誰か武田鉄矢呼んできて。一緒に並ばせて。……でも考えてみたら第1シリーズって、かざぽんが生まれる前なんだよね。うわあ。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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