大矢博子の推し活読書クラブ
2017/06/21

亀梨和也がスパイを演じた「ジョーカー・ゲーム」、原作に亀ちゃんも心酔[ジャニ読みブックガイド第3回]

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 ギリギリでいつも生きていたい皆さん、こんにちは。地元じゃ負け知らずのふたりが共演した「ボク、運命の人です。」も終わり、亀担さんはソロコンに向けてアップを始めた頃でしょうか。
 亀ちゃんといえば、スターを多く輩出した二大学園ドラマ「3年B組金八先生」と「ごくせん」の両方に生徒役で出演した唯一のジャニーズ。金八では寿司屋の息子役(生徒のメインは風間俊介くんだった)、ごくせんでは仁亀揃い踏みでクールっぷりを見せつけてくれたよね。
 最近は恋愛ドラマが多いけど、個人的には「ごくせん」のようなクールな役も好きだなあ。ということでジャニ読みブックガイド第3回は、亀ちゃん主演のあの映画だぞ!

■KAT-TUN 亀梨和也主演!「ジョーカー・ゲーム」

 2015年公開の映画「ジョーカー・ゲーム」(東宝)の原作小説は、柳広司の同名小説『ジョーカー・ゲーム』(角川文庫)。昭和10年代前半を舞台に、スパイ養成所「D機関」とその卒業生の活躍を描いたスパイ小説だ。
 だが、原作と映画には大きな違いが3つある。

(1)原作はすべて主人公が異なる一話完結の短編集だが、映画は各編からエピソードを抜粋、再構成して一本の物語を作っている。
(2)原作は「緻密で論理的な謎解きミステリ」、映画は「スピーディーなアクションもの」と、かなり印象が異なる。
(3)亀ちゃんが演じた嘉藤は、原作には登場しないオリジナルキャラ。

 実は亀ちゃん、もともと小説「ジョーカー・ゲーム」の読者だった。読者だったどころか大ファンで、雑誌や番組でもしょっちゅう語っていたのだ。だから映画出演はとても嬉しかったそうなんだが、「原作ファンだからこそ、『原作ではこうなのに!』ともどかしく思うこともありました」(「野性時代」2015年2月号の対談記事より)と言うくらい改変されている。

 あれ? オリキャラとなると私がこの連載第1回で提唱した「ジャニ読み」の第3段階「自担がなぜこの役なのか考えながら読む」ができない?
 大丈夫、それでもちゃんとジャニ読みはできる。亀ちゃんの役はオリジナルでも、その原型はちゃんと原作の中にあるのだ。まずはストーリーがどう違うか、比べてみよう。


イラスト・タテノカズヒロ

■映画と原作はここが違う。

 原作はこうだ。
 超難関の試験を突破した精鋭たちが、スパイに必要なありとあらゆる訓練に励むD機関。それを率いる結城中佐は、彼らを使ってさまざまな諜報戦に勝利していく。
【ジョーカー・ゲーム】陸軍参謀本部からD機関に出向した佐久間は、軍人とはまったく違うD機関の価値観や、奇妙な試験、訓練に戸惑う。
【幽霊(ゴースト)】スパイの嫌疑がかかったチェス好きの英国総領事グラハムを調べるべく、D機関の卒業生が〈チェスが得意な仕立て屋〉を装って近づく。
【ロビンソン】写真師のふりをしてロンドンで任務中だった井沢が、英国諜報機関に捕らえられた。取り調べの最中、井沢は英国との二重スパイになると持ちかける。
【魔都】上海派遣憲兵隊の中にいる内通者を探り出せ、と上官に命令された憲兵軍曹。ところがその上官の家が爆破され……。
【XX(ダブル・クロス)】友人をかばって上官に楯突き、処罰対象となった飛崎。結城に拾われ、D機関で学んだ後、卒業試験に挑む。

 これが映画ではどう再構築されたか。(【】内は対応している原作の短編)
 仲間をかばって上官を殺してしまった陸軍士官の青年(亀梨和也)は、処刑寸前に結城中佐(伊勢谷友介)に拾われ、D機関に入る【XX】。これまでの軍人の価値観を修正され、さまざまな訓練を経た【ジョーカー・ゲーム】青年は、嘉藤という偽名を与えられて、アメリカ大使グラハムから重要書類を盗み出すよう命じられた。
 嘉藤はチェスが得意な写真師になりすましてグラハムに取り入る【幽霊】。そこでメイドとして働くリン(深田恭子・映画オリジナルキャラ)と出会う。書類は手に入れるものの、追っ手につかまり拷問された嘉藤は、二重スパイになることを持ちかけた……【ロビンソン】

 原作のいろんなピースをうまく組み合わせているし、騙し騙されの醍醐味もたっぷり。だが、はっきり言おう。原作の読みどころが知的ゲームなら、映画最大の見どころは、亀ちゃんの色気&アクションと深キョンの七変化ファッションだ!
 ジャッキー・チェンばりの派手なストリートアクション。拷問されるシーンなんて奥さん、これぞジャニーズのセクシー王子だ目の演技と腹筋に注目だごちそうさまです!
 なお、隣の部屋では深キョンが拷問を受けるんだが、こっちだけ照明がピンクである。なぜだ。

■亀ちゃん演じる嘉藤のオリジナルはこの人だ!

 さて、嘉藤は映画オリジナルのキャラだが、実は入江悠監督はインタビューで、嘉藤は「原作の一編【XX】に登場する飛崎を元にした」と語っている。
 仲間をかばって上官に背き、処分対象となった飛崎。確かに映画の始まりは【XX】のその場面だ。だがそこ以外に【XX】のエピソードは登場しない。だから監督の言葉は、もしかしたら、導入部のことだけかもしれない。

 でもね、【XX】を読むと、亀担なら納得するんじゃないかな。飛崎は優しい人物だけど、優しさゆえに、卒業試験でヘマをする。その挽回の過程で、彼は同じD機関の仲間に助けられる。一方、映画の嘉藤は優秀なプロのスパイだけど、時々間抜けなミスをする。そしてやっぱり仲間に助けられる。
 以前、ニノが番組内で亀ちゃんのことを「すげえかっこいいのび太」と評したことがある。笑ってしまった。プロ意識が強くて、努力家で、セクシーでフォトジェニックで、でも見た目に反してどこか抜けてたり他メンにつっこまれたりする亀ちゃん。
 なるほど、飛崎が嘉藤で、それが亀ちゃんなんだ、と納得するはず。そういった目で、ぜひ【XX】を読んでいただきたい。

 と、同時に。エンタメに徹した映画には反映されなかった原作の場面がある。表題作で、天皇は現人神だ、自決こそ武人の誉れ、と言う軍人に対し、結城中佐がこう告げる場面だ。

「貴様が何を信じていようがかまわん。(中略)もし本当に自分の頭で考えぬいたすえに、それを信じているのならな」

 ──どう? ぐさぐさ来ない? 自分が信じている理念、思想は、本当に自分の頭で考えぬいた末のものなのか、誰かに刷り込まれたことを自分の考えのように思い込んでやしないか、と振り返らずにはいられない。
 そしてD機関の生徒が、軍人のことをこう評する。「例えば日本が戦争に負けた場合、たちまちまったく反対のことを、容易かつ同程度に、信じるようになるでしょう」

 映画は手に汗握る展開と爽快なラストで楽しいことこの上ない。一方、原作には、知的ゲームの底に強いメッセージが込められている。原作『ジョーカー・ゲーム』は、かっこいいスパイを描くことで逆説的に、戦争に向かう「盲信」「思考停止」を鋭く否定し、自分の頭で考えろ、と告げているのである。
 亀ちゃんが出版早々に読んで「世界観のトリコになった」と語る『ジョーカー・ゲーム』原作は、そんな物語なのだ。

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2017/07/05
第3回アンケートの受付は終了いたしました。
「ジェームズ・ボンド」を演じて欲しいジャニーズには1位が稲垣吾郎さん。2位は香取慎吾さん、3位はKAT-TUNの亀梨和也さん、4位は木村拓哉さんでした。前回、前々回と続き今回も稲垣さんが1位、金田一耕助からジェームズ・ボンドまで、稲垣さんの幅の広さを感じますね。
アンケートの詳細は下記からご覧頂けます。
>> 第3回
多くの方のご参加をありがとうございました!
第4回は大藪春彦のデビュー作『野獣死すべし』の主人公「伊達邦彦」です。ご参加をお待ちしております!
>> アンケート このヒーローにはどのジャニーズ?【4】

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