中島裕翔主演“ぼくごは”が配信開始 原作セリフの再現度に驚き!
強く強くもっと強く胸に想いを抱く皆さんこんにちは。ジャニーズ出演映画の配信が始まりましたね! これまでも一部のビッグタイトルは配信されていたけれど、大部分はネットサービスに載らないというのがお約束のようになってました。ところが今月に入って動画配信サービスを検索すると、錦戸亮主演「羊の木」や亀梨和也主演「PとJK」、生田斗真主演「秘密」などなど、「えっ、これが入ってる!」と喜ぶことしきり。
このコラムで過去に取り上げた映画だけに絞ると、
第6回 中島裕翔・主演「ピンクとグレー」
第11回 松本潤・主演「ナラタージュ」
第22回 亀梨和也・出演「美しい星」
第30回 長瀬智也・主演「空飛ぶタイヤ」
第31回 横山裕・主演「破門 ふたりのヤクビョーガミ」
などが配信されてますよ。この機会にぜひ映画を見て、さらに原作をお楽しみいただければと思います。
ということで、ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回は今夏配信がスタートしたこちらの映画を取り上げるよ。
■中島裕翔(Hey! Say! JUMP)・主演!「僕らのごはんは明日で待ってる」(2017年、アスミック・エース)
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- 僕らのごはんは明日で待ってる
- 価格:550円(税込)
原作は瀬尾まいこの同名小説『僕らのごはんは明日で待ってる』(幻冬舎文庫)。今年『そして、バトンは渡された』(文藝春秋)で第16回本屋大賞を受賞した著者が、2012年に発表した恋愛小説だ。
高校生の葉山亮太は、体育祭の競技〈米袋ジャンプ〉をきっかけに親しくなった同級生の上村小春と付き合うことに。口下手で不器用、流されがちで黄昏れがちな亮太と、強靭なまでに我が道を行くタイプの小春は、大学は離れてしまったが順調に交際を続けていた……はずだった。けれど突然、小春が別れ話を切り出す。いったいどうして?
瀬尾まいこの文章は軽やかで柔らかくて、とても読みやすく、すっと読者の胸に入ってくるのが特徴だ。悲しい場面にもどこか温もりがある。唐突な言動にもなぜか懐かしさがある。登場人物ひとりひとりが愛おしくなるような、そんな優しい物語を瀬尾まいこは書く。特に、突拍子もない人物や展開を違和感なく、むしろ必然と印象付ける構成は著者の真骨頂だろう。
たとえば原作を読むと、いきなりの〈米袋ジャンプ〉だ。男女ペアなら二人三脚などもっと普通の競技があるだろうに、なぜいきなり主役を米袋に入れるのか。恋の小道具が浅見光彦シリーズってのもいかがなものかと思う。いや、内田康夫先生には何の文句もないが、もっとロマンティックなものが何かあるだろう。ポカリ派かアクエリ派かって、そんな大事? 自分探しでいきなりタイに行っちゃうって何なの。しかもおばちゃんたちのツアーで。探せるのか、自分。
……とまあ、表層だけ見ればツッコミどころ満載なのに、それを瀬尾まいこの文章で読むと不思議なくらい自然で、もうこれしかない、と思わせるのである。米袋に入ったこと、浅見光彦シリーズを読んだこと、唐突なタイ旅行。他にも、ふたりで行ったケンタやガスト。書店で買う東京ウォーカー。イエス・キリストというあだ名。ひとつひとつにリアルな生活感がある。それが重なることで、唯一無二の〈その人〉が浮かび上がる。そしてすべて青春を彩る一コマとして、ちゃんと後で効いてくるのだ。これは瀬尾まいこの巧さだ。
イラスト・タテノカズヒロ
■瀬尾まいこワールドを見事に再現。
そんな瀬尾まいこの世界を、映画は見事に再現していた。省略された場面もあるけれど、ストーリーは原作に極めて忠実に進み、米袋も浅見光彦もポカリもケンタもガストも原作通りに登場する。なお、小春が紙袋に入れてきた大量の浅見光彦シリーズは、少しだけ見えた装丁から判断するに、手前は『華の下にて』の単行本、いちばん奥は『鄙の記憶』のノベルス版だった。間の文庫は残念ながら特定できなかったが、一時停止して手元でじっくり確認可能な配信サービスだと、こんなこともできるのだなあ。
ところで、米袋をあそこまで履きこなすのは裕翔くんくらいだと思う。さすがベストジーニスト。
もちろん、映画オリジナルの場面もあった。カーネルサンダースとの握手やデパート屋上の望遠鏡などがそれだ。特に終盤、亮太がカーネルサンダースを抱えて走り出す場面は原作にはない(あれって犯罪ではないのか)。
だが場面は新たに加えられていても、そこで交わされるセリフの再現度には驚かされた。原作とまったく同じセリフが頻繁に登場するのだ。小説に書かれた会話文は、話し言葉とはいえ文章で読ませるのに適した工夫がされているものだ。なのにこの映画は、原作そのままの台詞回しをとても多く使っている。瀬尾まいこの文章がすごいのか、そのまま成立させた脚本と監督がすごいのか、演じた俳優が上手いのか。映画の後で原作を読むと、映画の脚本を読んでるような気持ちになったほどだ。
しかし後半、大きな改変があった。一旦は別れたふたりだが、諦めきれない亮太は小春に復縁を迫る。映画では小春は「勝手に私のこと分析しないでよ」と言った後で窓を閉めるが、原作にはまだ続きがある。そこからの会話がとてもいいのだ。高校時代の米袋レースに触れて……まあ、そこは本編をお読みいただきたいが、その部分がまるっとカットされていた。あれ? と思ったら、そこからの展開が大きく変わっていたのだ。
■「ぼくごは」、原作と映画はここが違う。
……うーん、その後の展開を書くとネタバレになってしまうかな。気をつけながら書きます。終盤、小春の身にある悲劇が降りかかるのだけれど、その時点で、映画のふたりはよりを戻せていない。その悲劇ゆえに、亮太の負担にならないよう小春は亮太を拒絶しているという構図である。
だが原作では、悲劇がわかったときにはすでにふたりは結婚している。つまり、原作では夫婦として悲劇に立ち向かうが、映画ではひとりで立ち向かう小春に亮太が寄り添おうとする話に変わっているのである。
これは物語のテーマに関わる変更と言っていい。この改変により、映画はふたりの恋愛物語であるという部分が前面に出た。恋の成就が最終ゴールになった。だが原作は、ふたりの変化と成長がテーマなのである。内向的な亮太がどんな経験を通し、どう変わったか。自己完結しがちな小春が、どう胸襟を開いていったか。その成長を、彼らの状況の変化(高校、大学、家庭)と並行させて原作は描いているのだ。おそらく、終盤の展開から受ける感慨は、映画と原作では似て非なるものがあるだろう。ぜひ原作でお確かめいただきたい。
中島裕翔くん演じる亮太は、兄の死を機にネガティブになってしまい、高校のクラスでは浮いた存在。大学に入って友人はできたものの、なかなか複雑な性格をしている。演じるのは難しい役だと思うのだが、とても自然な好演だった。裕翔くんはインタビューで、「中島くんのままでいい」と監督に言われたことや、亮太の「やる前からネガティブに考えちゃうところ」が自分と似ていると思ったことなどを語っている。本当に原作の亮太が抜け出たかのようだった。裕翔くんファンも、違和感なく原作をジャニ読みできるはずだ。
そうそう、映画のクライマックスで亮太が叫ぶ「小春がいないんじゃ、どうしようもない」に始まる感動的なセリフ。原作では一言一句同じセリフがまったく異なる場面で使われているので、探してみてほしい。会話の巧さは瀬尾まいこの魅力のひとつだが、シーンを変えても同じセリフを使うというのは、監督がその魅力を大切に思っていることが伝わって、小説ファンとしては嬉しい限りである。
大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。
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