大矢博子 ジャニ読みブックガイド
2019/10/23

城島リーダーが犯罪者役?! ドラマ「トッカン」にニヤニヤ笑いが止まらない

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 いいね!を気にせず咲くような花でいたい皆さん、こんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はもちろん、TOKIO城島リーダー結婚記念回だ!

■城島茂(TOKIO)・出演!「トッカン 特別国税徴収官」(2012年、日本テレビ)

 9月に城島リーダーが結婚を発表したとき、「これはジャニ読みで扱わねば!」とやる気満々で立ち上がったのだが、次の瞬間「あれ? 小説原作のドラマって何か出てたっけ?」ともう一度座り直した。リーダーのドラマ出演といえばはぐれ刑事だが、このコラムは原作小説を紹介するという趣旨なのでオリジナルドラマは対象外。困った、何かあったっけ?

 ということで単発ゲスト出演まで含めて探したら、あったあった、ありましたよ。それがこの「トッカン」だ。リーダーのドラマ歴の中では極めて珍しい、犯罪者の役である。しかも若い女性と不倫してたりする。えっと、結婚祝いのコラム……まあいいか(いいのか)。

 原作は高殿円の同名小説『トッカン 特別国税徴収官』(ハヤカワ文庫JA)だ。現時点で『トッカン vs勤労商工会』『トッカン the 3rd おばけなんてないさ』(同)『トッカン 徴集ロワイヤル』(早川書房)の4巻が刊行されているが、ドラマは第2巻までがベースになっている。悪質な税金滞納者から取り立てを行う特別国税徴収官・鏡雅愛と、彼の補佐をする若手徴収官・ぐー子こと鈴宮深樹が、さまざまな滞納者と戦う税務署エンターテインメントであり、どんな手で税金をごまかしているのかを推理する税務署ミステリだ。

 3巻まではいずれもメインとなる滞納者との物語が全編を通して描かれる一方、時折、1章だけで決着する一話完結型の滞納案件が登場する。このように複数の事件が並行して綴られるミステリを「モジュラー型」と呼ぶ。本来は警察小説に使われる言葉だが、本書も警察に近い権限を持つ機関が舞台ということでモジュラー型ミステリに分類していいだろう。

 ドラマの構成は逆にメインで一話完結型の体裁を取りながら、複数回に跨る事件を並行して描くという手法だった。原作では一話完結の案件が少ないためか、原作第2巻のエピソードやドラマオリジナルの事件が順不同で挿入されている。


イラスト・タテノカズヒロ

■リーダー出演回、原作とドラマはここが違う

 リーダーが登場したのはドラマ第3話。脱税しているカフェのオーナーの役で、この回だけのゲスト出演だ。原作では第1巻の1章「死に神と葬式女」でのエピソードに当たり、1巻での一話完結案件はこの事件だけである。

 赤字経営のはずなのに、カフェのオーナー三井晴彦はかなり贅沢な暮らしをしている上、都内に3箇所もチェーン店を持っていることに鏡が不審を抱き、ぐー子がカフェの客として潜入調査をする──というのが「死に神と葬式女」の粗筋である。ドラマではカフェの名前や三井の浮気相手の職業など細かな差異はあったが、概ね原作と同じ。リーダーが演じた三井晴彦の来歴も、脱税の方法も、基本的にはすべて原作に準じていた。

 ──じゃあ違いはないの? いや、あるのだ。原作の三井晴彦には、実はセリフがひとつもないのである。ぐー子に尾行される描写だけで、人物造形がわかるような描写もゼロ。ドラマでは爪が綺麗だと言われ「コーヒーを出す手が汚かったら、あなたに失礼でしょう?」と返すキザキャラだったが、あのキャラこそドラマオリジナルなのだ。いやあ、この原稿書くのにあらためて三井晴彦に注目して原作を再読したが、驚いたね。まったく喋ってないじゃん! ていうか、ほとんどフィーチャーされてないじゃん晴彦!

 それもそのはず、前述したようにこのエピソードは第1巻第1章。登場人物の紹介や税務署の仕事の説明をしなくてはいけない章なのである。他にも、物語の終盤まで引っ張ることになる複数の滞納者も登場する。しかも全員揃ってキャラが濃い。さらに後々の展開のための重要な伏線も散りばめられている。情報がめちゃくちゃ多い章なのだ。だからこの章で完結する脱税カフェの事件は敢えて人間味をはずし、謎解きに特化できるように構成されているのである。

 ドラマではそれを第3話に持ってきた。すでに登場人物紹介や仕事説明は済んでいる。そのため、カフェの事件に原作よりキャラやドラマ性を加えることが可能だった。原作の三井をリーダーでジャニ読みすれば、何気ない場面がより膨らんで読めるだろう。逆に謎解きに特化した原作では、ドラマではカットされた推理の背景がより細かく説明されている。なぜ三井に脱税の疑いが向けられたのか、詳しく知りたい人はぜひ原作でお確かめいただきたい。

■『トッカン』は古傷を抱えて次の扉を開ける物語

 だが、原作小説『トッカン』のメインは決してミステリ部分ではない。主人公のぐー子も鏡も、それぞれが心に古傷を持っているのがポイント。さらにぐー子は徴収という人に嫌われがちな仕事で、新たに、たくさんの傷を負う。その中で税務署の仕事とは何かを少しずつ学んでいく。これは彼女の成長物語であり、まさに島茂子が歌う「人に言えない古傷抱えてる/哀しみの過去を拭う指先で次の扉開ける」物語なのである。文章もキャラもポップでコミカルで、全編これ戯言みたいなノリなのに、ここ一番で読者の涙腺を刺激してくるから油断できない。

 リーダー出演回が第1巻第1章ということは、原作を読むのも当該部分つまみ読みではなく、物語の最初から入れるということである。でもって、原作は長編。1章だけでは話が終わらないので、どうかそのまま読み続けてほしい。ドラマでは分割されたエピソードが長編でどう描かれていたかを知って驚くに違いないから。複数の案件だと思っていたものが組み合わさることで、「古傷」と「新しい扉」という物語の大きなテーマが浮かび上がるようになっているのである。異なるパーツが組み合わさって奏でるメロディの素晴らしさは、TOKIOというバンドのファンには特にはっきりと伝わるはずだ。

 それにしても。原作では特にキャラのなかった三井晴彦だが、リーダーが演じるのを見てるとにやにや笑いが止まらない。犯罪者の役なんだけど、浮気してる男なんだけど、ぜんぜん悪そうに見えなくて、いい人オーラ全開なんだもん。リーダーが若い女性の肩を抱いている! リーダーが妻と浮気相手に挟まれてオタオタしている! らしくなくて、でもとっても「らしい」感じもして、実に楽しい。キザなキャラも、滑ってる感じがたまらない。滑ってこそリーダー城島茂である。

 考えてみればリーダーの出演ドラマって恋愛ものは殆どないし、恋愛シーンがあってもハッピーエンドに終わったものは記憶がない(何かあったっけ?)。はぐれ刑事なんて、ようやく幸せが訪れるかと思ったらプロポーズ直前に殉職! ひどすぎる……。「天使のお仕事」はサッドエンドだったし、「パパドル!」は女性問題で事務所を解雇された役だし、「トッカン」は浮気男だし……何なの、リーダーは幸せになっちゃいけないの? と思っていたところに結婚報道ですよ。ドラマで報われなかった分、実生活ではお釣りのくるほどの幸せをお祈りしています。

 でもカフェの売り上げをごまかす方法のひとつ(メインではない)が、安い豆を買い付けて高く売っているというのはいただけない。リーダーなら、自分でコーヒー豆くらい栽培すると思うよ? いや、コーヒー豆に適した土作りから始めるに違いない。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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