大矢博子の推し活読書クラブ
2019/12/25

加藤シゲアキ主演「悪魔の手毬唄」散りばめられた「継承」に納得!

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 その背中追いかけたいとこころ叫ぶ皆さんと、言葉よりもプライドよりも大事なものがある皆さんこんにちは。ジャニーズ出演ドラマ/映画の原作小説を紹介するこのコラム、1年ぶりのシゲ金田一ですよ!

■加藤シゲアキ(NEWS)主演、小瀧望(ジャニーズWEST)・出演!「悪魔の手毬唄」(2019年、フジテレビ)

 原作は横溝正史の同題小説『悪魔の手毬唄』(角川文庫)。1957年から1958年にかけて雑誌「宝石」に連載された。金田一耕助ものの長編としては第17作にあたる。

 舞台は昭和30年。旧知の磯川警部に紹介されて岡山県の鬼首村を訪れた金田一耕助は、そこで知り合った多々羅放庵老人から元妻・おりんへの手紙の代筆を頼まれる。ところがその後、放庵は行方不明に。そしておりんと思しき老婆の姿が目撃されるたびに、村の娘たちが奇妙な格好で殺されていく。この地で23年前に起きた未解決殺人事件と何か関係があるのか?

 ……というのが原作の大枠。童謡の歌詞通りに事件が起きる見立て殺人ものである。1961年に高倉健主演で一度映画化されているが、広く一般に知られたのは1977年の映画(市川崑監督・石坂浩二主演)と、同年のテレビドラマ(毎日放送・古谷一行主演)がきっかけだ。その後、何度もテレビドラマ化されたこともあり、金田一シリーズの中でも知名度の高い作品のひとつである。

 1990年に古谷一行主演で13年ぶりにリメイクされたのも話題を呼んだが、ジャニオタ兼横溝ファンとしては、やはり2009年の稲垣吾郎版(フジテレビ)が忘れられない。数ある映像化作品の中でも稲垣版は特に原作リスペクトが強い上、過去の映像作品へのオマージュ場面も多々あり、原作ファン・映画ファンが嬉しくなるような趣向が凝らされていたものだ。ソフト化してくれないかなあ……。

 おっと、話がずれた。金田一耕助とジャニーズに共通する〈継承〉については今年の初めにシゲ版「犬神家の一族」を取り上げたこのコラムで、また金田一耕助自身については稲垣版「犬神家の一族」の回に詳しく書いたので、そちらをご覧ください。ただ今回のドラマでは、もうひとつジャニオタが注目すべき〈継承〉があった。1977年の石坂浩二版映画でフォーリーブスのコーちゃんこと北公次が演じた青池歌名雄役が、ジャニーズWESTののんちゃんこと小瀧望に〈継承〉されたのだ。70年代からのジャニオタにとっては感無量……。ちなみに歌名雄は横溝正史の異母兄の名前である。


イラスト・タテノカズヒロ

■シゲ版「悪魔の手毬唄」、注目ポイントはここ!

 今回の「悪魔の手毬唄」は昨年の「犬神家の一族」よりあらゆる面で進化しているように思えた。昨年は原作のどろどろした部分がすべてカットされ、犬神家史上最も爽やかな仕上がりだったが、今回はどろどろもきっちり表現。それどころか、これまでの映像化ではだいたいカットされてきた「職業差別」に言及していたのには驚いた。ちゃんとやりますよ、という意思表明のように思えたものだ。

 始まって10分で「おりん婆さん」とすれ違い、12分で最初の事件が起きるという高速展開や、随所に挟み込まれるコミカルな掛け合いやセルフパロディといった令和的演出。その一方で、仄暗い映像と豪華な役者たち(特に女優陣!)の大時代的な演技が醸し出す昭和感。そして稲垣吾郎版にも通じる原作と過去の映像作品へのリスペクト。これらの融合がシゲ版金田一だ──というひとつの形が今回で出来上がったように思う。そしてその蝶番の役目を果たしているのが、「昭和のイケメン」ぽさを持つシゲの躍動感と誠実さである。

 石坂版の映画や古谷版ドラマ、そして稲垣版も、基本的には原作を踏襲しながら、終盤の展開は大きく改変していた。原作では犯人がわかったあとで謎解きが始まるが、その順番を変えてオリジナルの演出を加えているのだ。それは今回も同じ。特に今回の改変部分は既存の映像作品より、さらに原作より、のんちゃん演じる歌名雄の見せ場が増えていた。なお、ドラマの最後に登場する手毬唄の4番は今回のドラマオリジナルで、原作には出てこない。

 原作でぜひ注目していただきたいのは、その歌名雄の描写だ。26歳、高校時代は野球の選手でピッチャーをやっており、身長は5尺7寸(173cm)。肌理の細かい肌、彫りの深い目鼻立ち、ほどよく陽焼けした健康そうな顔色。畑仕事をするときは陽気に歌謡曲を歌い、その喉は甘く柔らか。「さしずめ歌名雄は村のロメオというところで、娘たちに人気があってさわがれる」とのことで、いやもう、これジャニーズで継承してほしい横溝キャラNo.1じゃないか!

 ドラマでは陰のあるキャラだった歌名雄だが、原作では「いつも落ち着いてにこにこしている」青年として登場する。「いやあ、歌名雄君、たいへんだね」「あっはっは。おからかいんさってはいけません。これも郷土の名誉ですけんな」といった、金田一との和やかな会話もある。そして最大の見せ場はクライマックスの場面。歌名雄はある事実を知って衝撃を受けるわけだが、どのように「知った」かが、ドラマと原作では異なるのだ。ぜひ原作をのんちゃんでジャニ読みして、シゲと和やかに会話する明るい歌名雄や、別の方法で真実を知る歌名雄を脳内再生していただきたい。
 

■『悪魔の手毬唄』の次に読みたい小説いろいろ

 歌名雄の改変以外にも、原作を手にとってほしい理由がある。実は本書は、東西のさまざまなミステリの「継承作」でもあるのだ。たとえば最初の娘の死体が漏斗をくわえさせられていたことについて、原作の金田一耕助には「いやあ、ぼくはいま外国の小説を思い出していたんですがね。あっはっは」というセリフがある。死体を前にして朗らかに笑う金田一……というのはさておき、これは作中にも説明がある通り、コナン・ドイルの短編「革の漏斗」のこと。現在は『ドイル傑作集III 恐怖編』(新潮文庫)などで読める。

 また、稲垣版ドラマの冒頭で小日向文世演じる横溝正史が、クリスティの『そして誰もいなくなった』について言及したのをご記憶だろうか。ヴァン・ダインの『僧正殺人事件』に並ぶ、有名な童謡を使った見立て殺人がテーマの名作だ。そしてこの2作は劇中で語られていた通り、横溝正史に「童謡殺人ものを書きたい」と思わせるきっかけとなった作品なのである。このあたりの稲垣版スタッフの横溝愛たるや!

 だがちょうどいい日本の童謡が見つからない。そんなとき、深沢七郎『楢山節考』(新潮文庫・他)に出てくる民謡が著者の創作と知り、「そうか、自分で作ればいいんじゃん!」とばかりに創作したのが、本書の鬼首村手毬唄である。『楢山節考』はミステリではなくて、姥捨(棄老伝説)を扱った短編だが、実はこの作品の中で山に捨てられる老婆の名前が「おりん」なのだ。ヒントをくれた作品へのお礼かもしれない。

 また、シゲの演じた金田一耕助については、参考書籍としてA・A・ミルン『赤い館の秘密』(創元推理文庫)を挙げておこう。素人探偵アントニー・ギリンガムが活躍する長編で、ちょうど今年(2019年)に新訳が出た。実は金田一耕助が初登場した『本陣殺人事件』で、語り手が金田一耕助を「この青年は飄々乎たるその風貌から、どこかアントニー・ギリンガム君に似ていはしまいか」と書いているのである。『赤い館の秘密』をシゲでジャニ読みするのも楽しそうだぞ。

 それにしても今回のドラマは、古谷一行が金田一のハットをかぶって「懐かしいなあ」と言ったり、生瀬勝久が加藤武のパロディをやったり(間に「TRICK」を挟んでいるので奇妙な捻れ感があったよね)と、細かいところまで実に楽しませてくれた。だが個人的には、久しぶりに原作を再読し、腰の曲がった老婆「おりん」が58歳の設定だったショックに全部吹っ飛んださ。昭和30年頃は58歳で老婆だったのか……そうか……。

大矢博子
書評家。著書に「読み出したら止まらない!女子ミステリーマストリード100」など。小学生でフォーリーブスにハマったのを機に、ジャニーズを見つめ続けて40年。現在は嵐のニノ担。

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