ラブシーンを演じたら「人前で脱ぐのが平気なんだね」…女優・小橋めぐみが語る“痕”とは
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- 泪壺
- 価格:460円(税込)
2007年12月公開の映画『マリッジリング』で私は主役を演じた。オファーをいただいて、すぐに渡辺淳一さんの原作を読んだ。
25歳の独身OL・千波が、既婚者の上司・桑村に惹かれる。千波にはマリッジリングを堂々とつけている桑村が信頼できる人物に思え、安心感があったのだが、彼と結ばれた時から指輪がいっそう気になってしまう。情事のあと冷たい指輪が体に触れ、焼き鏝を当てられたような痛みを感じるのだ。
しかし、後日デートで彼が指輪を外してきた時、今度は指輪の痕の白さが目に留まる。既婚者として過ごした歳月の重みをそこに見つけた千波は「わたしには白い衣装をつけた魔物のように、毒々しく見えるだけである」と感じ、別れを決心するのだった。セックスではなく、指輪の小さな痕にフォーカスしていることに惹かれて出演を決めた。
撮影は12月だった。屋外ロケの寒さに凍えていると、桑村役の保阪尚希さんがカイロをくださり「芸能界、自分の身は自分で守れ」とおっしゃった。セックスシーンは数シーンあったが、すべて撮影後半の1日にまとめられた。今ならこういうシーンでは専門のコーディネーターがつくそうだ。
とにかくどう見えるかに全身の神経を尖らせながら動いた。「これじゃ、まるで運動会みたいだね」と笑い合い、撮影は少人数で穏やかに進んだ。
その後、「ベッドから裸で立ち上がる千波の後ろ姿を撮るので前貼りをつけます」と言われ、撮影に使っているホテルの部屋のバスルームに、衣装さんと2人で入った。私はそれまで前貼りの何たるかを勉強不足のため知らなかった。
絶対に見えてはいけない部分にだけ、その形にテープを小さく切って、貼った。
前貼りってこれなのかと思った瞬間、なぜか涙が出そうになった。
映画が公開され、フォーカスされたのは、指輪の白い痕ではなく、小橋めぐみが大胆なラブシーンに挑戦したという話題だった。
私がこういう映画に出演したと知った方が「人前で脱ぐのが平気なんだね」と言った。平気であるわけがない。でも、そう見られてしまうのだと思った。
傷痕ではない。ただ、痕として、このときの記憶が私の中にずっと残っている。
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小橋めぐみ(こばし・めぐみ)
- 1979年、東京都生まれ。無類の本好きとしても知られ、新聞・女性誌などに書評を寄せるなど、近年は読書家として新たなフィールドでも活躍中。
著書に、読書エッセイ『恋読』(角川書店)がある。近年の出演作は、映画『あみはおばけ』、『こいのわ 婚活クルージング』、NHK「天才てれびくんhello,」、BSフジ「警視庁捜査資料管理室(仮)」など。