#本 #猫
最近、本との出会い方に少しだけ変化が起きている。
これまでは出会いの場所は本屋さんが主だった。本屋さんが好きな理由として、目的の本以外にもたくさんの出会いがあることが大きい。だけど一方で、本を何冊も買ってしまうと荷物が重くなってしまうので、ネットのほうが楽だよねと思うこともある。だがネットだけでは、それこそ目的の本止まりになってしまうことがほとんどだ。Amazonでは購入履歴から“あなたにおすすめ”を出してくれるが、正直そこから購入したことはない。
本屋さんには、購入傾向からは外れているような、普段目を向けてこなかった本がそこかしこにいる。そしてなんの壁もなく、手に取ることができる。これが大きい。
洋服と同じで、触れてみないとわからないということが本にもある気がしている。手に取り、試着をするように、自分の感覚にハマるか、あらすじや冒頭の一文を読んでみる。または、試着せずとも洋服のデザインや素材だけでコレ!と選ぶように、本の装幀や紙質で欲しいと思うこともある。
そんないわゆるジャケ買いというのが増えているのだ。そんな魅力的な本と出会う場所というのが、本屋さんよりも最近はインスタグラムのほうが多くなってきている。
自分自身の投稿が本にまつわるものが多いからか、虫眼鏡マークのページにあらゆる本が流れてくる。さらに、わたしが猫の写真や動画を見ることが多いからだろう、特に猫の本が多く表示されるのである。
でもそういったわたしの趣味嗜好に寄り添いながらも、普段あまり自分では手に取ることがないような画集だったり、社会学の本だったりもあって、新しい出会いも十分にできている。小説、エッセイはもちろんのこと、マンガ、哲学書、写真集、雑誌……と本屋さんではおそらくそれぞれのジャンルの棚に置かれている猫本たちが一同に会し、わたしだけの「猫の本棚」がインスタ上にできあがっているのだ。
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- Mo Story 子猫のモー
- 価格:2,750円(税込)
そこで最近出会った一冊が、『子猫のモー』という絵本だ。
オリーブ色の表紙の真ん中に、一枚の絵。森のなかで、マフラーをした白黒のハチワレ猫が落ち葉を片手に佇んでいる。その隣、フクロウが止まっている木には、色とりどりの紅葉、幹の後ろから覗くアライグマ。よく見ると小さなネズミも寄りかかってくつろいでいる。そして空には、星のような光が輝きを放っている。
まだ本を開いていない(手に取ってすらない)というのに、この表紙絵に物語が見えた気がした。絵に魅了されて、まずはタグ付けされていた作者のアカウントへ飛んだ。これもインスタならではである。
作・絵は、韓国のチェ・ヨンジュさん。そのページには、この絵本の主人公である子猫のモーの絵やグッズの写真がたくさん投稿されている。ほんとうにどれもかわいい。そのなかに、実写版モーを見つけてつい手を止める。それはモデリという名前の作者の愛猫のようで、今回の作品のモデルになっていることを知る。もう一匹、ノリという名前の茶トラもいるようなので、ノリさんをモデルにした絵本作品も期待したいところだ。
そんな作者のアカウントを通してすっかりファンになってしまったわたしは、ネットで即注文したのだった。
よくある絵本を想像していたので、いざ届いたら、意外にもサイズが小さかった。文庫本より一回り大きいくらいで、持ち歩きたくなるサイズだ。そして何より、170ページ弱という厚さ。開いてみると、絵がメインになっているが文章の量もまぁまぁあり、見応え読み応え十分の一冊だ。絵本として紹介されているが、児童書の入り口に良いのではないかと思う。
そしてそこには、表紙の絵から想像した以上にかわいくて深くて、あたたかい物語が広がっていた。
主人公は、子猫のモー。
ある秋と冬のあいだの真夜中のこと。みんな寝静まっているというのに寝付けないでいたら、窓の外に何やら光るものを見つけた。それは星ではない何かで、「こっちへおいで」と笑っているように見えて、モーは家を抜け出して、暗い森のなかを探しに行く。
冒険の最中に出会う森の動物たち。フクロウ、ヤマガラ、キタリス、アライグマ、カヤネズミ、トナカイ……みんなが準備を手伝ってくれたり、挨拶の仕方を教えてくれたり、ご飯をご馳走してくれたり。一人の冒険だけど、たくさんの仲間たちの協力があって森のなかを進んでいける。
そしてみんなが最後に必ず忠告するのは、森にすむ怖いクマのこと。やがて雨が降ってきたとき、モーは心細くなってクマのことを考えてしまい、怖くて丸まって動けなくなってしまう。そんなときに、冒険のはじまりでフクロウに言われたことを思い出す。
「しっかり、気をつけながら でも怖がりすぎずに進んでいくんじゃ」
このまま丸まっているままではどこにも行けない、と勇気を出して目を開けると、そこにはクマが。でもこのクマ、実は――というお話だ。
笑っている光を探すモーの冒険に勇気をもらいながら、森の仲間たちのやさしさに包まれるのだ。
本を閉じて表紙を眺める。帯にある、日本語訳を担当した芸人で漫画家の矢部太郎さんの言葉に大きくうなずく。
〈1ページ1ページ、額に入れて飾りたいくらい魅力的な絵で描かれる冒険にひき込まれます。〉
閉じても思い出すことのできる、動物たちの豊かな表情や動き。そしてトーベ・ヤンソンがムーミンで描く森を彷彿とさせるような繊細なタッチによって、森の奥行や味わい深さが増す。
あぁ、ほんとうにすてきな作品に出会えた。インスタに投稿してくださったどなたかに、感謝したい。そしてわたしもこのあと投稿する予定だ。今日もまた、SNS上で読書の連鎖が起こる。