大矢博子の推し活読書クラブ
2025/12/10

妻夫木聡主演、目黒蓮・松本若菜出演「ザ・ロイヤルファミリー」原作から大きな改変が常の日曜劇場 今回はどこを変え、どこを寄せた? 原作後半で語られるテーマをはじめから明かしたドラマ版

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 推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はいよいよ大詰めを迎えるこのドラマだ!

■妻夫木聡・主演、目黒蓮、松本若菜・出演!「ザ・ロイヤルファミリー」(TBS・2025)

 TBSの日曜劇場には小説を原作にしたものが多くある。目立つのは池井戸潤作品で、もはや看板となった「半沢直樹」シリーズをはじめ、『下町ロケット』『陸王』『ルーズヴェルト・ゲーム』『ノーサイド・ゲーム』など。海堂尊「ブラックペアン」シリーズも2期にわたって制作されたし、近年の作品のみならず小松左京『日本沈没』や松本清張『砂の器』、山崎豊子『華麗なる一族』『運命の人』といった昭和の名作もリメイクされている。……おお、こうして並べると錚々たるラインナップだな。

 これら小説原作の日曜劇場には面白い共通点がある。とにかくどれも大幅に改変してくるのだ。昭和の作品を現代に置き換えるなんて序の口で、たとえば医療ミステリである「ブラックペアン」シリーズは半分以上原作にないエピソードが加えられていたし、昭和を代表する名作『砂の器』はなんと物語の根幹である動機が変えられていた。「半沢直樹」シリーズで主人公の決め台詞だった「やられたらやり返す、倍返しだ!」は原作では1回しか出てこない。普通に考えれば、「もはや別物じゃん!」と突っ込みたくなるような改変ばかりなのである。

 ところが。そこまで変えているのに見終わってみれば「原作通り」なのである。正確に言えば、「大きく改変しているのに話が進むにつれて原作に寄せてきて、気付けば原作通りになっている」のだ。ミステリの動機が変わっていても原作者がそこに込めた大きなテーマは原作に沿っているし、原作にないエピソードが追加されてもそれはテーマを補強する形で落ち着くし、企業モノで人物関係が変わっていてもそこに現れる人間模様は原作と同じなのだ。なにこの超絶技巧。

 原作モノのドラマや映画は改変が不可避だ。だからこそ改変が少ないと、原作を大切にしてくれているように思えて原作ファンとすれば嬉しくなる。だがこの日曜劇場に関していえば、「ここからどうやって原作に寄せるんだ?」というまったく別種のワクワクと、「こんな手できたのか!」というサプライズを原作ファンは味わえるのである。もちろん、今回の「ザ・ロイヤルファミリー」も例外ではない。


イラスト・タテノカズヒロ

■ドラマは原作をどう改変したか

 原作は早見和真『ザ・ロイヤルファミリー』(新潮文庫)。山本周五郎賞とJRA賞馬事文化賞(文学・評論・美術・映画・音楽などの文化活動を通じて馬事文化の発展に顕著な功績のあった個人・団体を日本中央競馬会が表彰するもの)を受賞した、著者の代表作のひとつである。

 税理士の栗須栄治(妻夫木聡)が人材派遣会社ロイヤルヒューマンの社長にして馬主である山王耕造(佐藤浩市)の秘書となり、さまざまな人たちと協力しながらG1勝利という夢に向かう20年を描く──というのが原作・ドラマに共通する物語の骨子である。

 骨子だけみれば原作通りなのだが、まずドラマは舞台となる時代を変えてきた。原作は1990年代の終わりから始まるが、ドラマの始まりは2011年。まあこれは半世紀も時代をずらした「日本沈没」や「砂の器」に比べればむしろ改変としては小さい部類と言っていい。それよりも序盤で驚いたのは、耕造の長男・山王優太郎(小泉孝太郎)の設定だ。

 ドラマでは父親が入れ込んでいる馬事業を潰そうと、さまざまな条件を出してくる。いわば敵役だ。だが原作の優太郎はいい人なのである。競馬事業にも反対はしていない。ていうか前半はほとんど登場せず、後半には物語の良心ともいえる存在になるのである。彼を敵役にしたのか! そういえば「ブラックペアン」のときも小泉孝太郎さんが演じた高階医師は原作ではめっちゃかっこいい主人公なのにドラマでは小物感あふれる脇役になっていた。何なの、日曜劇場は小泉さんにこういう役を振るって決めてるの?

 第2話以降の展開も原作にないさまざまなエピソードが加えられていた。ここで気付いたのは、原作の主要登場人物がそれぞれどのように「山王ファミリー」に入っていったのかを順に描く構成になっているということ。第1話では記者の平良(津田健次郎)、第2話では調教師の広中(安藤政信)、第3話では野崎ファームの野崎父娘(木場勝己・松本若菜)、第4話ではジョッキーの佐木隆二郎(高杉真宙)などなど。原作には出てこない彼らの家族や来し方などが追加され、回を追うごとにチームで集まって天ぷら屋で食事をする場面のメンツが増えていく。気付けば原作通りのチームが出来上がっているのである。

 もうひとつの大きな改変は、耕造の過去の恋人・中条美紀子(中嶋朋子)と息子の耕一(目黒蓮)の描き方だ。原作で栗須がこの親子を知るのは、美紀子の葬儀の場だ。つまり生前の美紀子は山王の思い出話でしか原作には登場しないし、美紀子と耕一のありし日の語らいも原作には出てこない。生前の美紀子と山王の妻・京子(黒木瞳)が会う場面も原作にはない。栗須と耕一が顔をあわせるのは、原作ではもっと後だ。
 
 

■最も大きな「語り手」の改変

 つまり読者にしてみても、耕一は何もなかったところにいきなり飛び込んできた存在だったのである。それをドラマでは、第1話から存在を匂わせていた。写真だけ出てきたり、公式サイトの相関図に写真だけ出して役名が伏せられていたり。SNSで「めめの役は何なの?」「あの子役の成長した姿では?」と盛り上がる中、原作既読組はニヤニヤしていたものよ。

 ドラマでの「匂わせめめ」のひとつがナレーションだった。公式サイトに?マーク付きで写真が出ているのでナレーターだけということはないだろうと、めめ担は彼が出てくるのをじりじりしながら待っていたわけだが、実はこのナレーションに大きな意味がある(中盤まで出ないめめに興味を引かせるというのは別として)。

 原作での語り手は栗須だ。だから彼の知らないことは書けない。ドラマで描かれた厩舎関係者のエピソードや生前の美紀子については描写のしようがないわけだ。しかも文体はですます調である。ドラマの妻夫木さんはその立場上常に低姿勢の丁寧語で話すが、原作の地の文はすべてあんな感じ。ただ、ドラマの栗須が毎回やたらと泣いているのに対し、原作はもっと淡々と状況を記していく。その淡々とした中に時折熱い思いをのぞかせるのが、実にいいのだ。

 だがドラマで原作通りの丁寧語ナレーションは向かないよね、どうするのかな?と思っていたら、そこでめめですよ当初は誰だかわからなかっためめですよ。なるほどね! これは物語のテーマにも沿った配役だ。

 本当はこれは原作第2部になって初めて「それを描きたかったのか!」と腑に落ちる大きな快感があるのでここで明かしたくはないのだが、この小説のテーマは「継承」なのだ。そういう意味では第2世代が中心となる第2部こそこの話の本丸なのである。だがドラマではかなり序盤から血統の話が(原作以上に)頻出していた。中条家、野崎家、山王家といった家族の物語も原作より前面に出ていた。ドラマは最初から「受け継いでいく」というテーマを隠さなかった。だからこその、めめのナレーションだったのだ。ドラマは第2世代から見た物語なのだ。

 ドラマは終盤になっても数々の改変がみられる。原作に出てくる耕一の祖母や恋人もドラマには登場しない。原作にある数々の事件も削られたり変えられたりしている。だがエピソードは大きく変えられても、気付けば原作通りになっている──それは「ザ・ロイヤルファミリー」も同じだ。どこをどう変えて、どう原作に寄せ直したか、ぜひ原作で確認してほしい。

大矢博子
書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。

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