大矢博子の推し活読書クラブ
2026/02/11

高橋文哉・天海祐希出演「クスノキの番人」声優陣がドンピシャ! アニメならではの視覚演出に納得 省略された伏線・テーマを原作で確認

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 推しが演じるあの役は、原作ではどんなふうに描かれてる? ドラマや映画の原作小説を紹介するこのコラム、今回はこのコラム初のアニメ映画だ!

■高橋文哉、天海祐希・声の出演!「クスノキの番人」(アニプレックス・2026)

 このコラムは役者さんのファンの皆さんに、「あなたの推しが演じた役は原作ではこんな感じですよ~。だから原作も読んでみてね」とお伝えするものなのだが、私自身が声優さんに詳しくないためこれまでアニメは扱ってこなかった。アニメや声優さんに関する知識がもっとあれば、辻村深月『かがみの孤城』(ポプラ文庫)とか綾辻行人『Another』(角川文庫)とか米澤穂信「古典部シリーズ」(角川文庫)とか、紹介したい原作はたくさんあるのに。

 でも! 今回のCV(Character Voice)のラインナップを見たらば、私の知っている役者さんの名前がずらずらと並んでいるじゃありませんか。これならイケる! ということで今回は、東野圭吾原作小説で初めて劇場アニメーションとなった『クスノキの番人』(実業之日本社文庫)ですよ。東野圭吾には珍しいファンタジーだ。これまで『パラレルワールド・ラブストーリー』『時生』(ともに講談社文庫)のようなSFはあったが、ここまで真正面からのファンタジーは『ナミヤ雑貨店の奇跡』(角川文庫)くらいではないかしら。

 勤務先を不当な理由で解雇された直井玲斗は、切羽詰まって元勤務先に盗みに入るも失敗、逮捕された。そんな玲斗のもとを訪れた弁護士は、ある人物の指示に従うなら釈放されるよう働きかけると言う。釈放された玲斗が引き合わされたのは、大企業・柳澤グループの顧問である柳澤千舟で、早くに亡くなった玲斗の母の姉とのこと。初めて会う伯母から玲斗が命じられたのは、神社にあるクスノキの番人だった……。

 というのが原作・映画に共通する導入部である。クスノキに「祈念」しにくる人たちの世話が玲斗の仕事で、彼はそこでさまざまな人に出会う。定期的にやってくる佐治寿明、そんな父に不審を抱いて後をつけてきた娘の優美、家業を継ぐことにわだかまりがあるらしい大場壮貴、などなど。玲斗は千舟の薫陶を受けながら彼らの人生にかかわっていくのだが、はたしてクスノキに「祈念」するとはどういうことなのか?

 大筋では原作通りのアニメ化だったが、登場人物が減ってるとか時系列が違うとかの細かい違いは多々あった。だがそれらの違いよりも大きかったのは、アニメならではの効果を使った「見せ場」の追加だ。


イラスト・タテノカズヒロ

■原作をよりシンプルにしつつ、見せ場を加えたアニメーション

 たとえば、千舟が玲斗を指導する時、扇子をビシッと突きつける動作。優美が玲斗に自転車の二人乗りを強要し坂を下るスピード。千舟の会社に玲斗が乗り込んだときの追いつ追われつの逃走場面。介護施設での聞き込みのときに優美が口から出まかせの事情を述べた場面。壮貴と玲斗のそれぞれの決意表明を同時進行で見せる演出。あとミミズク! 異様に可愛いミミズク! スマホ拾ってくれるミミズク! どれも原作にはないものばかりだ。だがそれがテンポをコントロールし、キャラを立たせ、場を動かしていた。なるほど、これは小説ではできないわ。

 だが原作との最大の違いは、千舟の秘密についての伏線が大幅にカットされていたことだ。千舟が玲斗と服を買いに出かける際、アニメでは玲斗のファッションコレクションのような体裁で楽しく見せてくれたが、原作ではあの場面に重要な伏線が隠されている。また、玲斗と千舟が箱根のホテルに泊まるときも、原作では伏線に加え千舟のホテル事業に対する思いが語られるのだが、アニメではそれがカットされている(ただ、原作通りのホスピタリティは背景に描写されていた)。

 千舟の過去や秘密に関する部分が大幅に削られた結果、原作よりも玲斗を中心に優美、壮貴ら若者の成長物語の趣を強く感じた。悩んで足掻いて、大事にすべきものの存在に気づき、それを守るために動く──のだから構成としては成長物語で間違いない。だが原作にはそれだけでなく、より広い層に向けての、主眼となるテーマが存在するのだ。それは「継承」だ。

 人はいつか必ず死ぬ。死んでしまえば、もうその声を聞くことはできない。だからその前に思いを伝えたい。あるいはその思いを知りたい。そうして思いを受け継いでいくことの意味こそが本書のテーマなのだ。現実にはこのようなファンタジーはない。ではどうすればいいのか──それを本書は登場人物ひとりひとりの立場を通して読者に伝えている。思いが伝えられなくなる状況は、決して死だけではないのだとも。

 もちろん原作のエピソードはアニメでも再現されたが、千舟にまつわる多くの伏線がばっさりカットされたせいで、全体の中でそのテーマが占める割合がやや少なくなってしまったのは否めない。

■CVがドンピシャ! 高橋文哉が天海祐希に叱られる!

 なのでそこはぜひ、原作で千舟のあれこれをお読みいただきたいのだ。彼女がずっと抱いていたある思いは、映画でも言葉では説明されたが、原作を読めばより深く伝わるはず。そしてその場面は千舟のCVを担当した天海祐希さんの声で脳内再生していただきたい。なんとなれば、この天海祐希さんがめちゃくちゃ良かったのである。

 CVは直井玲斗に高橋文哉、佐治優美に齋藤飛鳥、大場壮貴に宮世琉弥、そして優美の父である佐治寿明に大沢たかお。なんでこれだけ集めてアニメなのか。実写撮れるじゃないか。このメンツで声だけって。ところが本職の声優さんではないにもかかわらず、まったく違和感がなかったことに驚いた。

 私は最初からCV目当てで観に行ったこともあり、序盤は「おお、文哉くんの声だ」「齋藤飛鳥ちゃんてこんなトーンの喋り方できるんだ」というノリで楽しんでいた。大沢たかおさんなんて王騎将軍の印象が強すぎて、普通に喋ってるだけで「普通のおじさんだ……」と妙な感動を覚えたくらいだ。つまり、アニメのキャラにCVの役者さんたちを重ねながら観ていたわけだ。ところがそれがだんだんなくなっていった。高橋文哉ではなく玲斗の声、齋藤飛鳥ではなく優美の声だと、いつの間にか当たり前のように受け止めていたのである。それってやっぱり「上手い」ってことだよね。

 高橋文哉さんの玲斗は等身大の青年という感じで最初からピッタリだと思いながら聞いていたが、驚いたのは壮貴を担当した宮世琉弥さんだ。本人とぜんぜんイメージの違うキャラなのにすごくナチュラルで、言われなきゃ宮世さんだとわからなかったかもしれない。齋藤飛鳥さんもアニメやラノベによく出てくる「押しの強い振り回し系美女だけど根は優しいんですよ」というキャラそのものの喋り方だった。絶対声優の才能あるでしょこの人たち。

 そんな中でも頭抜けた印象を残したのが、千舟を担当した天海祐希さんだった。他のCVが本人を忘れさせる中、天海祐希さんだけはめっちゃ天海さんだったのである。もうね、そのまま天海さんが喋ってるのよ。天海さん以外の何者でもないのよ。千舟の後ろに天海祐希が見えるのよ。高橋文哉が天海祐希に叱られてるのよ。そりゃ背筋も伸びるわ。天海さんご本人のキャラも相まって、千舟がどれだけ凛とした女性なのかが声から伝わってくる。もう他の声は考えられない。千舟に天海さんをキャスティングした監督、天才かよ。

 というわけで原作を読む際はぜひ、各CVのまま脳内再生していただきたい(私は再読時に佐治寿明が王騎将軍になりかけたが)。そして映画と原作のあとは、ぜひ続編の『クスノキの女神』(実業之日本社)を読んでほしい。その後の玲斗・千舟・壮貴に会えるぞみんな頑張ってるぞ。内容としては「クスノキ応用編」という感じで、東野圭吾らしいミステリとヒューマンドラマの融合が味わえる。さらにそこから生まれたスピンオフ絵本『少年とクスノキ』(実業之日本社)もある。併せてどうぞ。

大矢博子
書評家。著書に『クリスティを読む! ミステリの女王の名作入門講座』(東京創元社)、『歴史・時代小説 縦横無尽の読みくらべガイド』(文春文庫)、『読み出したらとまらない! 女子ミステリーマストリード100』(日経文芸文庫)など。名古屋を拠点にラジオでのブックナビゲーターや読書会主催などの活動もしている。

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