裏切らない「一級品」【私の名作ブックレビュー】

レビュー

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ゴッホは欺く〔上〕

『ゴッホは欺く〔上〕』

著者
ジェフリー・アーチャー [著]/永井 淳 [訳]
出版社
新潮社
ジャンル
文学/外国文学小説
ISBN
9784102161258
発売日
2007/02/01
価格
693円(税込)

【私の名作ブックレビュー】裏切らない「一級品」

[レビュアー] 湯谷昇羊

 ジェフリー・アーチャーは1969年、最年少議員として下院に登場するが、投資に失敗して無一文に。作家となった後、上院議員に復帰、スキャンダルで辞任、偽証罪で服役、と話題の多い作家である。

 政治家としても実力はあったのだろうが、それより作家として超一流である。彼の作品は、経験に基づいたものも多く、英国を中心とした貴族(本人が一代貴族・男爵)、政治、銀行、ホテル、百貨店、刑務所などの制度や仕組みがよく理解できるし、何よりその裏側を覗き見ることができるので、単なる娯楽としてだけでなく知的好奇心もくすぐる。

 今回は、ゴッホの有名な(かつ高価な)絵画「耳を切った自画像」を題材に、これを不正に入手しようとする銀行家と、それを阻止しようとする主人公が登場。2001年9月11日のアメリカ同時多発テロ事件が絡み、登場人物の行動を縛る。前半は、銀行の美術コンサルタントの女性主人公、それを狙う殺し屋、FBI上級捜査官という会話もしたことのない3人が、まさに「息をもつかせぬ」「手に汗握る」という形容詞が相応しい展開をみせる。そして意表をつく結末が待っている。

 ジェフリー・アーチャーは、同じ出来事を複数の登場人物の視点から描くことを得意としているが、今回も同じ手法を使っている。彼の作品を読んで裏切られたことは一度もないが、この作品もこれまで同様、一級品のエンターテインメントである。

新潮社 週刊新潮
2013年4月11日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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