恐竜の生態が鮮やかに描かれる

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鳥類学者 無謀にも恐竜を語る

『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』

著者
川上 和人 [著]
出版社
技術評論社
ジャンル
自然科学/生物学
ISBN
9784774155654
発売日
2013/03/16
価格
2,068円(税込)

恐竜の生態が鮮やかに描かれる

[レビュアー] 稲垣真澄(評論家)

 本書はタイトルの通り、鳥類学者で恐竜ファンでもある著者が、もし「鳥類が恐竜の直系子孫」なら鳥類学者の自分にも恐竜を語る資格ありとして、鳥類についての知識に基づきながら、恐竜の生態を大胆に推測、再構成する。その際「無謀にも」の言葉はあくまで謙遜で、わずかな化石資料に語らせるしかなかった従来の恐竜世界を色のないモノトーン世界だとするなら、現に生きている鳥についての豊富な知識から再構成されるそれはフルカラーの沃野のおもむきだ。恐竜が一気に身近なものとなる。
 たとえば羽毛の起源についての考察なども面白い。現存する鳥類の羽毛には飛翔以外に防御、保温、ディスプレイなどさまざまな機能が認められる。恐竜にあっても性的ディスプレイや幼体の保温用だったものが、やがて飛翔にも用いられるようになった可能性は大いにある。その際、前肢が翼になるためには、前肢がすでに歩行から解放されておらねばならず、つまり二足歩行が前提となる。ティラノサウルスなどの獣脚類が鳥類の祖先として想定されるという。羽翼ではなく皮膜を広げて大空を滑空していた翼竜は恐竜とは別種の爬虫類だが、小惑星の衝突で恐竜ともども絶滅し、地上の哺乳類と空の鳥類とが食物連鎖の下位にいたがゆえに生き延びたというわけだ。
 化石からだけでは手も足も出ない恐竜の皮膚の色、鳴き声の種類、植食(草食)恐竜たちの出すゲップの総量、その温暖化への寄与の程度、恐竜もハトやニワトリと同じく首を前後に振りながら歩行していたか否か ……などについて鋭く問い、かつ鮮やかに答えてくれる。

新潮社 新潮45
2013年6月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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