『ハンニバル戦記(下) ローマ人の物語5』
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平山書店「現代日本人が生きるためのヒントを見出せるかもしれない」【書店員レビュー】
[レビュアー] 平山書店(書店員)
かつて小林秀雄氏との対談をまとめた『人間の建設』で、日本数学史上最大の数学者と称えられる岡潔博士はローマ時代について次のように語った。「あのときの時代は功利主義だったと思う」と。
ローマはポエニ戦役の後、ギリシアの都市国家コリントを破壊し、鋤でならしてただの更地にした。かつてあれほど憧れていたギリシア人の国家をである。このあたりからローマは、政治を重んじ、軍事を重んじ、土木工事を求める性向を強めてゆく。そして元々彼らがもっていたすぐ実社会と結びつけて考える性向はますます鮮明になってゆく。それはかつて古の神々であった、そしてギリシアの知性であったろうが、ローマ人から垂直軸が失われたことを意味しよう。ローマが混迷に陥る兆しは確かにあったのだ。
さて、日本はいま相対化した社会の中にありその結果としてモラルの危機に陥っている。卑近なところでは長期化するデフレの中、有効な手を打てないでいるように、いまはぶれないための”軸”がない状態だ。ローマ人のこの後の難局への対応の仕方に、現代日本人が生きるためのヒントを見出せるかもしれない。