奇食珍食 糞便録 [著]椎名誠

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奇食珍食糞便録

『奇食珍食糞便録』

著者
椎名, 誠, 1944-
出版社
集英社
ISBN
9784087207989
価格
836円(税込)

書籍情報:openBD

奇食珍食 糞便録 [著]椎名誠

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 入れたら出さなければならない。飲食と排泄のことであります。本書においては、タイトルの奇食珍食も出てきますが、糞便録に重きが置かれます。

 東スポへの連載をまとめたものですが、明らかに功を奏しています。

 縦横無尽に遠慮会釈なく、それを綴っているのです。著者は説明する必要がないほどの怪しい探険家です。国内のみならず、世界各国へ探険に出ます。それもあえて秘境と言われるところへ。

 酷暑、極寒、砂漠、ジャングル、それらの地での飲食の結果、排尿排便となります。ごくあたりまえの行為ですが、それが困難を極めることがあり、その様子が活写されるわけです。まさに臭気ふんぷん、のけぞる体験の目白押しなのです。

 日本に住んでいることに、感謝の念が湧き上がります。そのトイレ事情は世界に冠たるもので、たとえそれがションベン横丁と言われるものであっても、大小便が滞留することはないからです。

 大のエピソードを紹介するのはさすがに憚かられるので、小を少々。マイナス四十度のヤクーツクでのことである。

「『着膨れ王』のような恰好で小便をするときが一大事だった」とある通り、それは身の毛もよだつ話だ。

 手袋も幾重にもしていて、それでは用が足せない。一番下の絹手袋で操作するのだが、指はたちまちかじかむ。それで少なくとも五重のズボンの前を開けてゆくのだ。迫る尿意にのろい動作、辿り着いても当然ブツはちぢこまっている。それを引っ張り出して放出するのだが、真っすぐ前に飛ばさなければならない。少しでも内にこぼしたら大変だ。「そのあと待っているのは数分後の股間部凍傷という絶望だ」。

 つくづく何度も日本のトイレをありがたく思います。小でこれですから大は推して知るべし。この表現が適切かどうかはさておき、こんな話がテンコ盛りなのであります。

新潮社 週刊新潮
2015年11月5日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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