正統派剣豪小説の逸品である。
大島で流入の子として生まれた弥五郎(後の一刀斎)は、手のつけられない暴れ者に育つが、中条流の名もなき剣士との出会いによって、只の荒くれから剣士へのきっかけを掴む。
作品は弥五郎=一刀斎の成長譚だが、剣を通してのそれ故、相手を倒しては一門の恨みを買わねばならぬ剣客の宿命が紙幅に刻み込まれている。その中で鐘捲自斎から五つの秘太刀を授かる場面は中盤のクライマックスで、迫力満点。
上泉伊勢守ら様々な達人と出会い、活殺自在の求道者となる一刀斎――思わずほほえましくなるラストも異色である。
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2015年11月5日号 掲載
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