『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ著、椎名誠、渡辺葉訳

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十五少年漂流記

『十五少年漂流記』

著者
Verne, Jules, 1828-1905椎名, 誠, 1944-渡辺, 葉, 1970-
出版社
新潮社
ISBN
9784105910044
価格
1,980円(税込)

書籍情報:openBD

『十五少年漂流記』ジュール・ヴェルヌ著、椎名誠、渡辺葉訳

[レビュアー] 篠原知存(ライター)

 ■何度読んでも熱中できる

 大人になったら、本を再読する機会が減った。もちろん例外はあるけれど、やっぱり未読の本に目がいく。考えてみれば子供時代って、親が買ってくれる本が読書世界のほとんどすべて。ときどき図書室の本とか友達の本が交じるけど、家にある本を何度も読み返すしかなかった。なかでも大好きだったこの物語、読んだ回数ではきっと人生ベスト3に入るはず。再読は20年ぶり…いやもっとか。

 冒険物語の名作だから必要ないかもしれないけれど、一応あらすじを。ニュージーランドの寄宿学校の生徒を乗せた帆船・スラウギ号が、南洋の無人島に漂着する。8歳から14歳の少年15人だけで、この苦境をどうやって切り抜けるのか-。

 これが読み始めたら止まりません。荒れ狂う夜の海で船を沈めないように苦闘する冒頭のシーンからずっとハラハラドキドキ。たどりついた島から他の陸地は見えず、さらに50年前の遭難者の骸(むくろ)まで見つけ、子供たちの絶望が深まっていく。生き延びるために試行錯誤するが、そのうちに協力しなきゃいけない仲間が対立し-。大団円を迎えるまでまったく息が抜けない。

 十五少年だけど、物語の核になるのは年長者の3人。いつも冷静で論理的、大人っぽい言動のゴードン。尊大で怒りっぽいドニファン。気立てが良くてみんなに好かれるブリアン。子供のころは、ドニファンのやることなすことに腹が立ったけど、いま読んでみると愛すべきキャラクターなのだ。そんな人物の造形、孤絶した島の表現、ドラマの展開、こうすれば物語は面白くなるというお手本のような作品だと再認識した。

 評者が愛読していたのは、『二年間の休暇』という原題をそのままタイトルに掲げた福音館書店の完訳版。あちこちすり切れた本が、実家の書棚に眠っているはずだ。本書は古典の名作を新訳する「新潮モダン・クラシックス」の一冊で、椎名誠氏が長女と共訳している。子供に読ませたいと思って買ったところ、50過ぎのおじさんが熱中してしまった次第。死ぬまでにあと何回読むんだろう。(新潮社・1800円+税)

 評・篠原知存(文化部編集委員)

産経新聞
2015年11月1日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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