『サミュエル・ジョンソンが怒っている』
- 著者
- リディア・デイヴィス [著]/岸本佐知子 [訳]
- 出版社
- 作品社
- ジャンル
- 文学/外国文学小説
- ISBN
- 9784861825460
- 発売日
- 2015/08/28
- 価格
- 2,090円(税込)
書籍情報:openBD
【聞きたい。】翻訳者・岸本佐知子さん『サミュエル・ジョンソンが怒っている』 ルールを打ち破る魅力
[文] 村島有紀
「米文学の静かな巨人」と呼ばれるリディア・デイヴィスの56編を収めた短編集を訳した。表題作の「サミュエル・ジョンソンが怒っている」は「蘇格蘭(スコットランド)には樹というものがまるでない。」の1行だけ。ジョンソンは辞書編纂(へんさん)や警句で知られる18世紀のイングランドの作家。文壇の大御所がスコットランドの風景に文句を言う? 何がなんだか分からない。
「普通の人は誰と会ったとか何を食べたとかを日記に書くけど、デイヴィスさんは自分が触れた言葉から、新しい言葉や感情が生まれたことを記憶したり、書き留めたりして作品にする。これらは彼女の自分観察日記ではないかと思う」
ひたすら繰り返されるQ&A、面談される女性の独白、キュリー夫人の伝記など、時代も場所もスタイルもさまざま。詩集のようにパッと広げて、どこから読んでもいい。不思議と印象に残り、文字が頭の中をかき回す。これは小説なの?
「ルールを打ち破り自由に書いているところが彼女の魅力。それから文章の美しさとリズム感。相当な言葉オタクで言葉のための言葉もある。私自身、幼い頃から社会の約束事になじめず、つらかったこともあり、字の世界ぐらい『約束事がなくてもいいのに』と思っていたから、彼女の作品に出合いうれしかった」
デイヴィスの訳書としては3冊目。初の訳書は、平成17年に白水社から出版した短編集『ほとんど記憶のない女』。原書を読んだとき、あまりの面白さに立ち上がり、走り回るほど興奮した。親しい編集者に「これを訳したい」と初めて自ら売り込んだ。世界が違ってみえるような新鮮な感覚に包まれ幸せだった。
小説は自由だ。起承転結のある展開だけが物語ではない。「意味が分からなくてもいい。不思議だけど心を揺さぶられる。そんな作品です」(リディア・デイヴィス著/作品社・1900円+税)(村島有紀)
【プロフィル】岸本佐知子(きしもと・さちこ) 昭和35年、神奈川県生まれ。上智大卒。会社員を経て翻訳家。ミランダ・ジュライ『あなたを選んでくれるもの』、ニコルソン・ベイカー『中二階』など訳書多数。随筆集『ねにもつタイプ』で講談社エッセイ賞。