『たすけて、おとうさん』大岡玲著

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『たすけて、おとうさん』大岡玲著

[レビュアー] 産経新聞社

 芥川賞作家でイタリア文学者の著者が13年ぶりに書いた12編からなる童話風の短編集。大変な実験作だ。表題作に使った『ピノッキオの冒険』以下、『月と六ペンス』『源氏物語』『老人と海』『変身』などの古典的名作に寄り添い、引用しつつ、著者は思いっきり想像の翼を広げてゆく。多様な物語世界を構築し、描写する手並みは、とても一人の作家の仕事と思えないほどだ。

 『星の王子さま』をベースにした「撒く人」は東日本大震災で妻と一人娘を亡くした中年男の話。「-ひとはそれぞれ、自分の星を持っているんだよ」の引用が胸を打つ。(平凡社・1800円+税)

産経新聞
2015年11月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

産経新聞社

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