『気象庁物語』
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【聞きたい。】古川武彦さん『気象庁物語 天気予報から地震・津波・火山まで』 実話交えシステム・技術史紹介
[レビュアー] 永井優子
「観測システムや技術の開発を軸に、それに携わった人々の実話をまじえながら、気象庁の歴史、業務を紹介しました」
明治8年、お雇い外国人の建議によって東京気象台が誕生し、今年で140年になる。日露戦争の日本海海戦で打電された「天気晴朗なれども波高し」の予報を出した岡田武松の話、昭和9年の室戸台風被害と気象業務見直しなど、観測技術確立に奮闘した歴史がコンパクトにまとめられている。
古川武彦さんは予報課長、札幌管区気象台長などを歴任したOB。「入庁した昭和34年に、アメリカから当時最新鋭の電子計算機を輸入して数値予報が開始されました。39年の富士山気象レーダー設置、47年の『アメダス』の整備、52年の気象衛星『ひまわり』打ち上げと、気象庁の技術的基盤を支えるシステム導入を目の当たりにしました」
ラジオゾンデという気象測定器がある。上空の気温や気圧などを観測する使い捨てのゴム気球で、毎日2回、国内16カ所、世界約900カ所で同時に打ち上げられている。古川さんが駆け出しのころは、水素ガスを充填(じゅうてん)して、手で上げていたそうだ。現在はもちろん自動化されているが、毎日24時間、虚心坦懐(たんかい)に気象に向き合い、日常生活も律する「測候精神」が、気象人のDNAだという。
「こうしたデータを使った天気予報は民間の気象予報士に任せて、気象庁の役割は防災情報の提供へと重点を移しつつあります」
本書とほぼ同時期に『避難の科学-気象災害から命を守る』(東京堂出版、2千円+税)も刊行した。災害現象の仕組みや、予測技術、防災に関する法律などが一冊で分かるガイドブックとなっている。「個々人が理解を深めることで、自分だけは大丈夫であるという思い込みを排し、より適切な避難が可能であることを強調したい」(中公新書・740円+税)(永井優子)
【プロフィル】古川武彦(ふるかわ・たけひこ) 昭和15年、滋賀県生まれ。気象庁研修所高等部(現気象大学校)および東京理科大卒。34年、気象庁入庁。著書に『図解 気象学入門』(共著)ほか。