『SEASCAPES』
書籍情報:openBD
【写真集】『SEASCAPES』杉本博司 原始人の見ていた風景
[レビュアー] 産経新聞社
同じような距離感で撮られた水平線の写真が反復する。上半分が白、下半分が黒。等分された長方形の画面。境界がぼやけたり、全体が白っぽかったり、逆に黒っぽかったりするけれど、変化は限られている。
説明文をみると、日本海、北太平洋、地中海、北極海…と撮影場所はさまざま。でも「これは大西洋だ」とか、見分けられる人はいないだろう。手掛かりになる要素は皆無。ひたすら、モノクロームの海と空。
杉本博司氏は現代美術の最前線で活躍する写真家のひとりだが、数々の作品のなかでも、この「海景」シリーズのインパクトは半端じゃない。初めて眺めた人は「何これ?」と思うはず。それも当たり前。写真は、思考を起動するスイッチにすぎない。何を思っても自由なのだ。
あまりに漠然としていたら、手掛かりになるのは、杉本氏のこんな言葉かもしれない。〈原始人の見ていた風景を、現代人も同じように見ることは可能か〉(存)(青幻舎・7800円+税)