国民食はいかに生まれたか

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ラーメンの語られざる歴史

『ラーメンの語られざる歴史』

著者
ジョージ・ソルト [著]/野下祥子 [訳]
出版社
国書刊行会
ジャンル
歴史・地理/歴史総記
ISBN
9784336059406
発売日
2015/09/28
価格
2,420円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

国民食はいかに生まれたか

[レビュアー] 山村杳樹(ライター)

 一九八〇年代から九〇年代にかけて熱狂的なブームを巻き起こし、国民食としての地位を確立したラーメンは、今や“クール・ジャパン”の最先端として欧米のみならず世界で注目を集めている。中国由来で主に外国産小麦を原料として作られるラーメンが、何故、日本を象徴する食べ物となったのか? 本書は東アジアを専門とするアメリカ人歴史学者が「現代日本の社会変化の重要な側面を表している」ラーメンの歴史的変化をたどり、その隠された意味を探る。一八八〇年代、横浜に来た中国移民が同郷の労働者に供した「拉麺」が日本人によって改良され「支那そば」として定着。一九二〇年代、三〇年代には日本各地で独自の進化を遂げ、急増した都市労働者たちに歓迎された。が、第二次大戦中の食糧難によりラーメンは一時姿を消す。「中華そば」が闇市で復活するのは占領軍が冷戦時代の戦略物資として自国の余剰小麦を日本に緊急輸出し始めた頃。日本は後にこの代金を支払わされることになるが、アメリカは「寛容な占領政策」という神話作りに成功する。一九五八年、日清食品の創業者・安藤百福によるインスタントラーメンの開発は日本の食生活に甚大な変化をもたらした。

 本書には、発売当初、チキンラーメンにはビタミンや補助タンパク質が添加されていた(七五年に添加中止)ことや、七二年に起きた連合赤軍による「あさま山荘事件」のテレビ中継により、機動隊が雪の中ですするカップ麺が全国的に認知されたことなど興味深いエピソードが紹介されている。九四年には横浜にラーメン博物館がオープン、ラーメンは日本の文化資産として遇されるに至る。著者の視野は広く、小津安二郎、成瀬巳喜男、伊丹十三などの映画から、美空ひばり、植木等の歌にまで目配りがされている。日常的に口にするラーメンだが、実は「文化を形づくるプロセスをのぞき見る窓」なのだという著者の主張に深く納得させられる。

新潮社 新潮45
2015年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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