95 キュウゴー [著]早見和真

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95 キュウゴー

『95 キュウゴー』

著者
早見 和真 [著]
出版社
KADOKAWA
ジャンル
文学/日本文学、小説・物語
ISBN
9784041019979
発売日
2015/11/26
価格
1,760円(税込)

書籍情報:openBD

95 キュウゴー [著]早見和真

[レビュアー] 香山二三郎(コラムニスト)

 5、11、64、69……という数列を見てピンと来た人は相当の日本小説通。順に佐藤正午、津原泰水、横山秀夫、村上龍の単行本の題名で、話の内容はどれもバラバラなのだが、いずれも傑作というところに何かの因縁を感じさせられる。

 本書もまた数字タイトル小説のひとつで、95とは一九九五年のこと。そう、阪神・淡路大震災や地下鉄サリン事件が起きたその激動の年、東京・渋谷で怒濤の日々を送った少年たちの姿を活写した青春小説だ。

 もっとも発端は二〇一五年の暮。三七歳の会社員・広重秋久は新村萌香という母校の高校の後輩から、一九九五年をテーマに卒業制作を進めており、ついてはOBの話を聞きたいというメールを受け取り、かつて仲間たちと入り浸っていた公園通りのレストラン・メケメケを再訪する。秋久は初対面の美少女に不審を覚えつつも当時の出来事を話し始める。

 成績優秀、品行方正の優等生のまま渋谷の名門中学から高等部へ進学した秋久は、地下鉄サリン事件の発生に世界の変貌を予感、その夜数人の同級生から呼び出され、メケメケへ向かう。政治家一族の御曹司・鈴木翔太郎を始め、グループのメンバーはそれぞれ複雑な事情を抱えていたが、皆秋久のことを中学の時のニックネーム――Qちゃんと呼び歓迎。彼もその後雑誌のモデルにスカウトされるなど脱皮を始めるが、その一方で渋谷の覇権を争う荒事にも巻き込まれていくのだった。

 世界の異変と時期を同じくして、現状に抗い始める一七歳の秋久たち。そこに美少女セイラとの恋やシリアスな暴力沙汰が織り込まれていく展開はオーソドックスなれど、現在と過去を行き来しつつ時代の爆発と青春の炸裂をシンクロさせた演出は軽快のひと言。長編『イノセント・デイズ』で日本推理作家協会賞を受賞した著者らしい、謎ありアクションありの快作で、まさに数字タイトル小説にハズレなしだ。

新潮社 週刊新潮
2015年12月17日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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