[本の森 ホラー・ミステリ]『陽気なギャングは三つ数えろ』伊坂幸太郎/『博多探偵ゆげ福 完食!』西村健/『消滅 VANISHING POINT』恩田陸/『犬の掟』佐々木譲

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『陽気なギャングは三つ数えろ』伊坂幸太郎/『博多探偵ゆげ福 完食!』西村健/『消滅 VANISHING POINT』恩田陸/『犬の掟』佐々木譲

[レビュアー] 村上貴史(書評家)

 伊坂幸太郎『陽気なギャングは三つ数えろ』(祥伝社)は、著者にとって唯一のシリーズ作品の第三弾である。第二弾からは九年の間が空き、その間に著者に大きな影響を与えた東日本大震災などもあったのだが、本作は過去の二作同様、たっぷりと読者を愉しませてくれる。

 絶対的時間感覚や掏摸など、各自の特殊能力を活かして銀行強盗を繰り返してきた四人組だったが、今回は予期せぬ窮地に陥った。人の醜聞や不幸をネタとする記事を書き、自殺者まで出している悪徳雑誌記者に銀行強盗であると察知され、彼の言うままに動くよう求められてしまうのだ……。

 予測のつかない展開がスピーディーに進む物語に、機知に富んだ会話が彩りを添える。各節の先頭の辞書をもじった記述も読み手の脳を刺激するし、おぞましい悪意は読み手の心を強く刺激する。そしてその悪意との闘いは、知略として鮮やかであり、仲間との絆として胸を打つ。まさに万全の娯楽小説なのだ。必読書である。

 西村健が私立探偵の弓削匠を主役とした連作短篇集『博多探偵ゆげ福 完食!』(講談社)もまたシリーズ第三作だ。各短篇のなかで謎解きと九州のラーメン文化をきわめて美味に絡めて語りつつ、連作としては匠の父親を巡る大きな謎を語ってきたシリーズである。この第三弾では、その父親の謎が決着をみるのだが、それがこんな形で――しかも周囲の人々をこんな形で巻き込んで――決着するとは、予想だにしなかった。短篇の出来映えばかりに注目していたため、この構造に気付かなかったのだ。さすが西村健。こちらの一枚上手である。なお、著者は匠の物語をまだ書き続けるそうなのでご安心を。

 恩田陸『消滅 VANISHING POINT』(中央公論新社)は、空港で日本への入国審査の際に足止めされた十一人(と犬一匹)の一夜を描いた物語だ。彼らは、彼らのなかにいるはずのテロリストを特定するよう入管に求められる。いわば無茶ぶりの無理難題だが、逆らうことは不可能。超大型台風と大規模通信障害によって孤絶した深夜の国際空港で繰り広げられる圧巻のディスカッション・ドラマである。五百頁超だが一気読み必至の痛快作だ。入管とテロリストが駆使する新テクノロジーにも注目。

 恩田陸が一夜なら佐々木譲は四十時間だ。『犬の掟』(新潮社)は、暴力団の幹部が車中で射殺されていた事件を端緒として、暴力団や警察、あるいは半グレといった組織の奥底にひそむ闇を濃密に描く。射殺事件を捜査する面々と、彼らとは別に警察内部を探るチームという二つの視点から描かれる四十時間の捜査は、最終的に、苦く、苦しく、そして意外な真相へと到達する。警察小説の名手が、まだまだ進化し続けていることを体感させてくれる一冊だ。

新潮社 小説新潮
2015年12月号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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