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縄田一男「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2015-16
[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)
『御用船帰還せず』は、御法度の金銀改鋳を行ったため、後に悪名を残すことになる勘定吟味役・荻原重秀と、彼のつくった隠密組織「微行組」の活躍を、経済をテーマに一大エンターテインメントの主役とした痛快篇。
特に後半の佐渡を舞台とした御用船をめぐる攻防は、一寸(ちょっと)した海外冒険小説を読むような迫力に満ちている。とてもはじめての時代小説とは思えぬ出来ばえ。
『為吉 北町奉行所ものがたり』は、十一月に急逝した作者が遺した傑作。
生家の呉服商を盗賊たちに皆殺しにされ、紆余曲折を経て、奉行所の中間になった為吉が主人公。彼が六つの事件を経て、再起していくまでが、確かな時代考証の中にとらえられている。作中人物の人間模様とさまざまな出来事のあり様が見事に描かれており、最後まで小説巧者だった作者の死が惜しまれてならない。
『我が名は秀秋』は、これまで関ヶ原の裏切者とされてきた小早川秀秋の像を一変させた力作。
自分は秀吉の縁続きの「路傍の石」でしかない、という諦観を抱く秀秋が、猛将として目ざめ、次第に家康に傾斜していく過程も極めて自然に描かれている。彼が関ヶ原で自ら決断を下す箇所では、思わずページを繰る手に力が入る。
『市川崑と「犬神家の一族」』は、ここまで詳細な分析を行っていると「犬神家」のオリジナルとリメイクをめぐる謎ときといい得るかもしれない。
私はリメイク派であり、この二作をめぐっては一家言あり、ぜひ意見を戦わせてみたくなった。
『女魔術師』は、ほとんどの作品が入手困難な超レア作品集である。
綺堂といえば誰もが『半七捕物帳』を思い浮かべるだろうが、このめくるめくストーリーテリングの世界をじっくり味わって御覧あれ。