中江有里「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2015-16

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  • 謎の毒親 : 相談小説
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  • ニッポン沈没
  • みんな彗星を見ていた : 私的キリシタン探訪記
  • 漱石人生論集

書籍情報:openBD

中江有里「私が選んだベスト5」 年末年始お薦めガイド2015-16

[レビュアー] 中江有里(女優・作家)

『謎の毒親』に衝撃を受けた。娘に関心を持たず、愛情を示さない両親の謎を、相談する形で解き明かす小説。子どもの頃から両親の理不尽すぎる言葉やふるまいに何度も傷つけられるままだった娘が、自らの意志で両親の元を離れたとき、読んでいた自分も何かから解き放されたような気持ちになった。毒親、2015年で一番怖かった!

『Masato』は父の転勤でオーストラリアに住むことになった少年真人を中心に描かれる家族の物語。言葉が通じず、クラスメイトにからかわれ、勉強も遅れていく真人。しかし段々となじんでいくと、今度は母との間に距離が生まれていく。親が子に願う人生と、子が歩みたい道は一致しない。真人の決断は彼の成長の証でもある。

 東日本大震災以降、自分の中で何かが変わった気がするがうまく言葉に出来ない。斎藤美奈子はそういう心にズバッと切り込んでくる。『ニッポン沈没』は2010年から5年間、話題の本やニュースに関連した本を取り上げた時評&書評の一冊。「炭坑が物語る日本」の章で、日本が世界一の石炭輸入国と知り驚いた。日本の経済発展を支え続けた炭坑が「負の遺産」となった経緯。炭坑がお払い箱になり、入れ替わるように原子力発電所が建ち始めた。日本のエネルギー政策についても考えさせられる。

『みんな彗星を見ていた 私的キリシタン探訪記』は400年前、日本で一旦受け入れられたキリスト教が弾圧された背景に迫るノンフィクション。著者は当時の楽器リュートを学びつつ私的な視点で綴る。手腕が見事である。

『漱石人生論集』は夏目漱石の随筆、講演、書簡から編まれた一冊。大学を辞め朝日新聞に入社した際の文章が印象深い。どのページをめくっても人生論として胸に迫る。

新潮社 週刊新潮
2015年12月31日・2016年1月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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