『しかしか』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
【写真集】『しかしか』石井陽子 街中の野生動物
[レビュアー] 産経新聞社
違和感が半端じゃない。野生のシカを撮った写真集なんだけど、そのシチュエーションがちっとも“自然”ではないからだ。撮影地は奈良と広島の宮島。土産物店の軒先に座り込む。車道で行列。工事現場に入りこむ。駐車場にたむろする。本来なら野生動物がいるはずもないような街中で、シカたちがしっかりちゃっかり生きている姿を眺めていると、だんだん笑えてくる。ついつい擬人化してセリフをあてたくなったり。それほど人間の生活域になじんでいるのであった。
最近は生息数が増えたことで、各地で“害”なんて言葉を使われているシカたち。本書のような共生の風景は、シカの生態としては一般的じゃないかもしれないが、「人間と自然とのかかわり方」という意味では、じつに象徴的だ。
巻末のコラム「しかをしる」によると、保護されている奈良公園のシカは、他のエリアのシカより約3倍も長生きするらしい。つまりこの風景、シカにとっては、生存のために当然の選択でもあるのだ。(存)
リトルモア・1600円+税