『ユートピア』湊かなえ著
[レビュアー] 産経新聞社
太平洋を望む港町で生まれ育った菜々子、夫の赴任に伴う社宅住まいの光稀、アートを志して移住してきた陶芸家のすみれ。たまたま出会った3人は、娘たちの交流をきっかけに、車いす利用者を支援するための基金「クララの翼」を創設する。天使の翼をモチーフにした素焼きのストラップは人気商品に。だが、小さなほころびから、理想的にみえていた穏やかな暮らしが崩れていく。不協和音が高まるなか、逃亡中の殺人犯が帰郷したという噂まで飛び交い、ついには-。空回りする気遣い、積もる怒り、反転する善意…そんな“暗黒面”の心理描写がさえる。(集英社・1400円+税)