小野不由美×中村義洋「なぜ人はホラーを観るのか」〈映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念対談(2)〉

対談・鼎談

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残穢

『残穢』

著者
小野, 不由美, 1960-
出版社
新潮社
ISBN
9784101240299
価格
649円(税込)

書籍情報:openBD

小野不由美×中村義洋「なぜ人はホラーを観るのか」〈映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念対談(2)〉

映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』

 現在、全国の劇場にて上映中の映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念でお送りする、中村義洋監督と原作者・小野不由美さんによる「ホラー愛」対談。大のホラー好きとして知られる小野さんが、中村監督が立ち上げた『ほんとにあった!呪いのビデオ』シリーズを絶賛した前回に続き、第2回では“なぜ人はホラーを観るのか”という話題になり……。

 ***

【中村】 主演の竹内結子さんは大変な怖がり。脚本も、読み始めては挫折、を数週間繰り返していた。初号試写の時も、残り15分くらいでスクリーンを直視できなくなった。改めて最後まで通して観終わった時には泣いてましたね。

【小野】 そんな怖い思いをしてまで、なんで人はホラーを観るのか、常々考えているんです。たぶん、人間にとっては、なぜ自分は生きているのか、死んだらどうなるのかという「生死」の問題が一番根源的な不思議ですよね。ホラーというのは、生死の「グレーゾーン」を踏んでは逃げ、逃げては踏んでいる、そんな感じがします。猫は怪しいものを見つけると、じりじり近寄って、ちょっかい出しては、ぱっと逃げる、それを繰り返す。人間も、ホラーで同じことをしているような気がします。

映画『残穢』で小説家の「私」を演じる竹内結子さん映画『残穢』で小説家の「私」を演じる竹内結子さん

【中村】 うちの子は5歳と3歳なんですが、僕の仕事場にあるホラー作品の恐ろしげなパッケージに興味を持って、「おとうさん、あれはなに?」と言ってくる。でも、取って渡そうとすると、「やめて!」と。

【小野】 ホラーだけではなく、なんでジェットコースターに乗ったり、スカイダイビングのような危険を冒すのか? 精神科学では、人間は恐怖をシミュレーションすることで、いざという時の耐性を付けるんだという見方があります。生物学的にも、パニックに陥った時、固まってしまう個体と逃避行動に移れる個体の違いは、それまでの恐怖体験の違いだと言われています。そういう意味では、いざという時のためにホラーはたくさん読むべき、たくさん観るべきかもしれません(笑)。

映画『残穢』での1シーン。左から坂口健太郎、佐々木蔵之介、竹内結子、橋本愛映画『残穢』での1シーン。左から坂口健太郎、佐々木蔵之介、竹内結子、橋本愛

【中村】 怖い夢を見て飛び起きた時の、安心感のようなものもあるんじゃないですか。僕の身に起きたことじゃなくて良かった、という安心感とかカタルシス。

【小野】 確かに、スラッシャー(殺人鬼もの)を観終わった時には、自分の所属している世界の安全性や正常さを確認しているのかもしれない。「こういう人がいたら怖いよね」と言っている時、完全に自分は安全圏にいますからね。欧米では、若者がパーティーでホラーを上映して盛り上がることも多いんですが、今の日本の若い人も同じようにホラーを楽しんでいるんですね。みんなで「うっ、怖え~!」とか言って盛り上がる。若い人たちのそういう楽しみ方は共通していますが、『邪願霊』や中田秀夫監督の『女優霊』のようないわゆるJホラーは、ハリウッドなど欧米のホラーとはやはり異質ですよね。我々からすると「ビックリする」のと「怖い」というのは違うんですが、欧米のホラーは「ビックリする」=「怖い」と強く統合されている。日本では、「ビックリ」より「怖い」のほうに重点があるように思います。『女優霊』で、ただ女の人が笑っているだけなのに、ものすごく気味が悪いシーンがあります。笑い方、ライティング、質感、何もかもが怖くできている。欧米型の怖い要素は全くないのに気味が悪いというのは、Jホラー独特のものでしょう。

【中村】 映画『リング』に出てくる呪いのビデオは、原作小説とはだいぶ違うものになっている。でも、何かを指さしているシーンとか、鏡の前で髪を梳(す)いているシーンとか、それだけなのにすごく気味が悪いですよね。

(3)へ続く

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『残穢』ストーリー
 小説家である「私」(竹内結子)のもとに、女子大生の久保さん(橋本愛)という読者から、1通の手紙が届く。「今住んでいる部屋で、奇妙な“音”がするんです」。好奇心を抑えられず、調査を開始する「私」と久保さん。すると、過去の住人達が、自殺や心中、殺人など、数々の事件を引き起こしていた事実が浮かび上がる。そして、最後に二人が辿りついたのは、すべての事件をつなぐ【穢れ】の、驚愕の正体だった……。

「特別読物 映画『残穢【ざんえ】―住んではいけない部屋―』公開記念 小野不由美(原作者)×中村義洋(監督)対談 私たちがホラーにハマる理由」より

新潮社 週刊新潮
2016年2月4日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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