『ナイルパーチの女子会』
書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます
渕書店 BOOKSTORE FUCHI「怖い。健康に悪い。それほど、『凄い』小説だ。」【書店員レビュー】
[レビュアー] 渕書店 BOOKSTORE FUCHI(書店員)
一流商社に勤務する栄利子、「おひょう」というペンネームで人気ブログを書く翔子、この二人が主たる登場人物。栄利子は「おひょう」のブログの愛読者である。一方的な友情を注ぐ栄利子の行動はいびつだ。ゆえに孤独な栄利子が翔子にまとわりつく-ナイルパーチというのはタンザニアの肉食の淡水魚で異なった環境に入れられるとそこの生態系を破壊しかねない凶暴な外来生物、だから栄利子がナイルパーチで翔子の生活を食い尽くす、そういう物語だと思った。ところが、物語はそんなに単純ではなく、進むにつれ混みいってくる。翔子の幼馴染の圭子、夫、父、弟、栄利子の両親、主人公二人の性格形成の片棒を担いだと思われる人物や栄利子の同僚の男、その彼女、父のかつての部下、翔子のブロガー仲間であるNORIといずれ劣らず物語に欠かすことのできない人間たちが登場し最初の読者の甘い読み方など消し飛んでしまう。一言ではとても語れない小説だと思うが、それでもあえて言えば『人間関係』のむずかしさを描いた小説。平易に語るとそうなるだろうと思う。
物語はとても一冊の本と思えないほど重厚。それを作り出しているのが人間たちの心理描写で、それは物語の性格上い残酷で過激で、女たちの身を切り合うような舌鋒は読者を不安にさせるに十分。自分自身に向き合わせる作者の罠のようなものを感じるが、その罠、毒こそが本書の魅力というか迫力なのかもしれない。
女同士であれ男同士であれ、男と女であれ、親と子であれ、夫婦であれ、愛や思いやり、優しい関係はこの世界のどこにも存在しないという寒々とした感慨が湧き、どうか結末だけは救いをくれ!と叫びだしたような心境になる。それは読者が最後まで読んで見つければよいが、諦観と引きかえに得るものというものがあるとしても、なんか寂しい(などと書くと多くの読者から笑わせるなと言われるかもしれないがそう読みたい)。ナイルパーチ・・・。渾身の小説。