地上で宇宙活劇を指揮ノリの軽いSF冒険譚

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書籍情報:openBD

地上で宇宙活劇を指揮ノリの軽いSF冒険譚

[レビュアー] 大森望(翻訳家・評論家)

 リアルな宇宙空間が冒険小説の絶好の舞台になることは、藤井太洋の日本SF大賞受賞作『オービタル・クラウド』がつとに証明したとおり。米国の新鋭キャンビアスの『ラグランジュ・ミッション』は、そのピカレスク版とも言うべき痛快エンターテインメント。

 主役は、自称、宇宙海賊キャプテン・ブラック。といっても、ハーロックみたいな(海賊船に乗り組むタイプの)古典的宇宙海賊ではなく、むしろ凄腕のハッカーに近い。高級リゾートホテルの一室から無線で宇宙機を操り、莫大な価値のある貨物ユニットの奪取を狙う。月面で採掘される希少資源ヘリウム3を横からかっさらおうという計画だ。電子兵器を積んだ米軍の軌道機で海賊を迎え撃つのが、もう1人の主役、米国空軍大尉のエリザベス。

 丁々発止の駆け引きをゲーム感覚で楽しみ、またも勝利を手にした海賊王(中二病入ってます)。そんな彼に、謎の組織が新たな仕事を持ちかけてくる……。

 時代背景は2030年だし、NASAっぽい専門用語が飛び交うが、主人公たちは地上にいながら宇宙活劇を指揮するので、早い話、ラジコン対決を思いきりスケールアップしたようなもんか。主役2人の間に過去の因縁があったり、ヨットで世界一周旅行中の女子大生がからんだり、ベタな娯楽性と細部のリアリティのバランスが絶妙。ユーモアを交えたノリの軽い語り口でどんどん読める。

 どうせ宇宙の話なら、もっとSFらしいSFが――という向きには、ジョン・ヴァーリイ『汝、コンピューターの夢』『さようなら、ロビンソン・クルーソー』(創元SF文庫)をセットで。〈八世界〉シリーズの全短編を2冊にまとめる永久保存版作品集。背景は、謎の超越知性により人類が地球を追われた未来。少数の生き残りは、水星から冥王星までの〈八世界〉に適応し、新たな文明を築く。大きく変貌したこの社会を背景に、ロマンスありミステリあり、洗練された物語が紡がれる。70〜80年代の米国SFを代表する名作揃いなので、新訳・改訳で復活したこの機会にぜひ。

新潮社 週刊新潮
2016年3月3日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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