『リンゴが腐るまで 原発30Km圏からの報告‐記者ノートから‐』
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リンゴが腐るまで 原発30km圏からの報告―記者ノートから― [著]笹子美奈子
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
3月11日も、なんだか8月15日に似てきちゃったなぁ。
そう感じざるをえないのは、回顧検証発掘の企画が新聞TV雑誌に集中する特異日に3・11もなりつつあるから。その日あたり以外で話題になる頻度が落ちてきてるわけで、いやヒトってホントに忘れたがり。福島第一の大事故だって、それがテーマの新書がこの時期にまとめて出るのは、他のタイミングでは手に取られにくいゆえでしょう。
登場してきたのは浅羽通明の『「反戦・脱原発リベラル」はなぜ敗北するのか』(ちくま新著)や小森敦司の『日本はなぜ脱原発できないのか 「原子力村」という利権』(平凡社新書)、それに小林哲夫の『反安保法制・反原発運動で出現 シニア左翼とは何か』(朝日新書)なんてのも。
こういう、読む前から中身の予想しやすい物件が並ぶなか、異色なのは今回紹介するコレ。文芸臭さえ漂う題名、反原発方面とは思いがたい版元および著者の奉職先(読売新聞)にもかかわらず、一読、東電に役所に政治、そしてニッポン、さらには人間に、あらためて、正しく、具体的に、落胆できるようになる。
イデオロギー色抜きで丁寧に報告されるのは、事故以来の地元の人たちと、彼らへの対応について。頁を繰るうちにまず腹が立ってくる相手は、あれだけの悲惨からもう5年経つのに彼らは、否、我々は、まだこんなに酷い状況にあるのかと驚く自分です。