美人ヴァイオリニストが説くジャズとエロスとの親和性

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美人ヴァイオリニストが説くジャズとエロスとの親和性

[レビュアー] 立川談四楼(落語家)

 ジャズと落語の親和性は知っている。ジャズファンやプレイヤーに落語好きが多く、その逆も同じように多いからだ。考えれば両方とも堅苦しくないのが売りで、アドリブなど共通点もあるのだ。しかしジャズとエロスを結びつけて考えることはなかった。ジャズが夜やアルコールとセットというイメージはあるのだが。

 著者はクラシックからジャズへ転身したヴァイオリニストであり、美人としても知られている。四歳からクラシック一筋、武蔵野音大卒業後もヴァイオリンを弾く仕事に就けたらと漫然と考えていたが、一枚のアルバムが著者の運命を変える。イツァーク・パールマンとオスカー・ピーターソンの『Side By Side』だ。著者の中に存在しなかったジャズに目覚めた瞬間である。

 バークリー音大への留学。そこでは戸惑うことばかりだったが、小曽根真、小澤征爾といった先達の知遇を得、アドバイスを受け、ジャズヴァイオリニストの基礎を築く……。自身の音楽歴を語りつつ、クラシックとジャズの違いにも触れる。「クラシックは指揮者の指示にしたがい、楽譜どおりに演奏するものであり、ジャズは楽譜に書かれていない即興の『アドリブ』をどう生かすかによって、楽曲の質が変わってくる」と。そうしてジャズとエロスという核心に迫ってゆく。なるほどエロスだという展開なのである。

 テレビの「情報ライブ ミヤネ屋」での共演をきっかけに知り合った松尾貴史との対談も、男と女のエロスの違いを語っていて引き込まれる。中で松尾がエッチとは変態を指す言葉だったが、「それをセックスという行為自体のことといいはじめたのは、たぶん明石家さんまさんだった」と指摘していて面白い。

 著者は本書でエロいジャズナンバーも紹介している。もう一つの特長は、それらの楽曲が来年末までストリーミング試聴できることで、余禄のある一冊なのである。

新潮社 週刊新潮
2016年3月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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