迫力満点の剣戟に次ぐ剣戟 御庭番の奥州密行の果ては

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迫力満点の剣戟に次ぐ剣戟 御庭番の奥州密行の果ては

[レビュアー] 縄田一男(文芸評論家)

 忍者、隠密、御庭番――いずれも権力の走狗として闇に生き、闇に死す宿命を持った者たちである。

 時代小説の世界でも、池波正太郎の直木賞受賞作「錯乱」(新潮文庫『真田騒動 恩田木工』所収)の平五郎のように、幕府の捨て駒にされる者がいるかと思えば、津本陽の『お庭番 吹雪算長(上下)』(文春文庫)のように不敵な面構えの者もいる。

 そんな中に新たに登場したのが鳥羽亮の『はみだし御庭番無頼旅』の三人だ。

 もともと御庭番は、八代将軍吉宗が、紀州家から連れてきた薬込(くすりごめ)役十七家の者たちで、本来は君主の御手銃(おてづつ)に玉薬を装填する役職だったが、その実、隠密御用を行う甲賀者が多かった。

 今回の三人のリーダー格、向井泉十郎は、表向きは古着屋の主だが、隠密の中でも特殊な任務、遠国への密行を中心に活動に当たっていた。ために「はみだし庭番」などと呼ばれている。相棒の植女(うえめ)京之助は、年少の頃、父母を亡くし、そのためかニヒルな風貌をしている。これに変装術の名人おゆらを加えると無敵のトリオが完成する。

 今回の密命は、財政改革中の陸奥の国石崎藩で私腹を肥やす面々から、不正の証拠を掴んだ藩士たちを守って国許まで同行するというもの。

 敵も次々と刺客を放ってくるが、そこは剣戟場面を書かせたら右に出る者のいない鳥羽亮のこと――こちらから先制攻撃を仕掛けて敵方を翻弄する。

 正に「はみだし庭番」の面目躍如である。

 作品は、追いつ追われつの道中ものの面白さに加えて、殺陣に次ぐ殺陣と剣豪小説的興味を盛って、ページを繰る手ももどかしいほど。

 もともと鳥羽亮は、自身も剣をつかうだけあって、殺陣の描写には定評があり、その的確さは、読んでいて、いま、眼の前で行われている斬り合いが迫ってくるようだ。

 さて、泉十郎らは問題の証拠を携えて国許に入ったものの、敵も、二段、三段の罠を仕掛けていた――。

 痛快な新シリーズのこれからに期待したい。

新潮社 週刊新潮
2016年3月24日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

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