『山の神さま・仏さま』
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『山の神さま・仏さま 面白くてためになる山の神仏の話』太田昭彦著
[レビュアー] 木村良一(産経新聞社編集委員)
■感動の中に神さまがいる
読み始めると、山という自然に対する畏敬の念が伝わってくる。
神を「感動や驚きを与えるもの、敬われ、恐れられるもの」と定義付ける。たとえば上高地から真っ白な雪で覆われた穂高連峰を見上げたときの感動、谷川岳の一の倉沢の大岩壁を登って下を見たときの恐怖心。「そこに神さまがいらっしゃる」と解説する。
著者は54歳になる登山家だ。山岳ガイドとして登山教室を主宰し、会員と日本各地の山々を登り、年間の3分の2を山の中で過ごす。
実は2月中旬、著者といっしょに日本百名山のひとつの伊吹山に登ってきた。琵琶湖のほとりの低山にもかかわらず、真冬の日本海から吹き付ける北西の強風はとても冷たく、頂上は雪と氷に覆われていた。その頂上に立っているヤマトタケルの像に向かって合掌し、一礼する著者の姿が印象的だった。
本書も伊吹山を取り上げている。東日本を平定したヤマトタケルが帰途、伊吹山で白い大きなイノシシにふんしたこの山の神に大粒の雹(ひょう)を見舞われ、命からがら逃げて山麓の清水で身を清めたという言い伝えが紹介されている。
「東征によって関東各地の山にはヤマトタケル伝説が多く残っている。そんな伝説に出会ったならここで話したことを思い出して山を歩いてください」と呼びかける。
他にも「ご来光の発祥は、阿弥陀様だった」「空海と山岳信仰」「富士山はかぐや姫のふる里だった」など興味深い話が数多く書かれている。
なかでも第3章にある著者自身の人生の決断を描いたところは面白い。お釈迦さまの「ただ生きるだけではなく、どう生きるかが大切」という言葉に背中を押され、23歳のときに憧れのヒマラヤ登山に旅立ち、帰国後にまたヒマラヤへの思いが募り、再びお釈迦さまの言葉に励まされ、旅行会社を退職して山岳ガイドになる。本書の中でこう著者は振り返っている。
「会社員人生よりもヒマラヤに出かけた四十五日間の方が自分の中に大きなものを与えてくれた。だから転身できた」(ヤマケイ新書・800円+税)