『ギリシア人の物語Ⅰ 民主政のはじまり』
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『ローマ人の物語』から9年、新シリーズ始動!
[レビュアー] 東えりか(書評家・HONZ副代表)
累計2000万部という大ベストセラー『ローマ人の物語』が完結して9年が経つ。塩野七生が現在の世界史ブームの火付け役を担った一人であることは間違いない。「ローマは一日にして成らず」という言葉通り、歴史とは時間の流れである。政治も経済も、そして人物もその流れに沿って見ていくのはなんと面白いのだろう。そのことに改めて気づかせてくれた傑作であった。
では、なぜ今あらためてギリシア人の歴史を書く気になったのか。理由は二つ。ひとつは「ギリシア・ローマ時代」と言われるように、キリスト教とともに西洋文明の二大基盤であるこの時代をきちんと取り上げないのは失礼ではないかと思い始めたこと。もうひとつは「民主主義とはなにか」、民主政治の創始者である古代ギリシア人の行跡(ジェスト)を辿ってみようという試みであると語る。
物語はオリンピックから始まる。オリンピアで4年に一度、スパルタやアテネ、コリントやテーベといった都市国家(ポリス)からの選手たちが一堂に会し競技会を行う。古代ギリシアは500もの都市国家に分かれていた。共通するのはギリシア語を話すこととギリシアの神々を信仰すること。彼らは夏になると毎年のように戦争を行っていた。せめて4年に一度は休戦をしよう。それがオリンピックの目的であったのだ。
それぞれの都市国家の国民性や習慣は大きく違っていた。謹厳居士のようなスパルタ人と、柔軟な思考力を持つアテネ人という対極の性質を持つ二国を例に挙げ、都市国家を纏める難しさを語っていく。
歴史物語を読む醍醐味、それは戦争にある。戦闘が激しいほど面白い。英雄が登場し、勝者が意外であればみんな固唾を飲んでその世界に入り込む。ペルシアとギリシアの戦争は、まさにそんな戦いだった。
東はインダス川、西は地中海を囲むエジプトからマケドニアまで手中に収めたペルシア帝国は、目の前にあるギリシアを狙っていた。だが第一次ペルシア戦役では思わぬ大敗を喫してしまう。
10年の時を挟み、捲土重来と二度目の侵攻は王室が全勢力を挙げた戦いとなる。それぞれ価値基準の違うギリシア都市国家が、どのように連携して勝利を手に入れたのか。それが本書のクライマックスになる。ドラマティックな生涯を送ったアテネの英雄、知将テミストクレスが非常に魅力的だった。
この後のギリシア人の行跡が気になってたまらない。