予想を軽々と超える 驚異の短編集3冊!

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予想を軽々と超える 驚異の短編集3冊!

[レビュアー] 瀧井朝世(ライター)

 第五回新潮エンターテインメント大賞を受賞した小島達矢の『ベンハムの独楽(こま)』がついに文庫化。受賞時、著者は弱冠二十二歳。収録された九編はゆるやかなつながりを持つが、ミステリー、ホラー、SFなどとそれぞれ異なる読み心地で、作者の豊かな発想力と構築力をうかがわせる。たとえば巻頭の「アニュージュアル・ジェミニ」では語り手の早紀が、自分と一卵性双生児の姉、真紀には魂がひとつしかなく、自分がまばたきすることによって双方の体を行き来していることに気づく。成長するにつれ、彼女は陽気な早紀と陰気な真紀という人格を使い分けるが、次第に周囲からも疎まれる真紀が邪魔になり、一計を案じる。

 ベンハムの独楽とは、白と黒だけで模様が描かれているのに、回転させると色彩が見えてくる不思議な玩具のこと。本作も、全編を通して読むと私たちの先入観を超えた奇妙な世界が浮かび上がってくる。

 予想をはるかに超える展開を見せる短編集といえば新芥川賞作家、本谷有希子の『嵐のピクニック』(講談社文庫)も素晴らしい。ピアノ教師が見せた狂気をきっかけに少女の人生が一変してしまう「アウトサイド」、無関心な夫を持つ主婦がボディビルにのめりこんでいく「哀しみのウェイトトレーニー」、動物園の猿山で奇跡が起きる「マゴッチギャオの夜、いつも通り」など、笑いと切なさと可愛らしさが溶け合った作品が並ぶ。著者初の短編集であり、作家としての転換点となった重要な一冊だ。

 一方、朝比奈あすか『憧れの女の子』(双葉文庫)は非日常的なことは起こらないが、はっとさせられる展開を見せる短編が詰まった作品集。表題作は一組の夫婦の話だ。三人目は女の子を産むと宣言し、産み分けの研究をはじめた妻に対し夫の気持ちはどんどん引いていく。やがて妻が妊娠。その性別は……。びっくり&にやりの結末が待っている。ガツンとくるのは「ある男女をとりまく風景」。男女の役割に関する自分の思い込みに気付かされた。共感と同時に新たな気づきも与えてくれる一冊だ。

新潮社 週刊新潮
2016年4月7日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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