組織の「グチャグチャ」にも対応可能! 33歳元ミクシィCEOが愛読する歴史本とは?【自著を語る】

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新世代CEOの本棚

『新世代CEOの本棚』

著者
堀江 貴文 [著]/森川 亮 [著]/朝倉 祐介 [著]/佐藤 航陽 [著]/出雲 充 [著]/迫 俊亮 [著]/石川 康晴 [著]/仲 暁子 [著]/孫 泰蔵 [著]/佐渡島 庸平 [著]
出版社
文藝春秋
ジャンル
文学/日本文学、評論、随筆、その他
ISBN
9784163904283
発売日
2016/03/25
価格
1,540円(税込)

書籍情報:JPO出版情報登録センター
※書籍情報の無断転載を禁じます

組織の「グチャグチャ」にも対応可能! 33歳元ミクシィCEOが愛読する歴史本とは?【自著を語る】

[レビュアー] 朝倉祐介(元ミクシィCEO)

 オーストラリアの騎手養成学校、調教助手、東大法学部、マッキンゼーを経て、ミクシィ再生を請われ30歳の若さでCEOに就任した朝倉さん。「ヒリヒリするような経営の修羅場」を乗り越えるのに役立った本を紹介する。

 ***

 どうしても頭の中で音に出しながら読んでしまうため、本を読むのは決して速くありません。流さずにきちんと読めるのは週に1、2冊程度。読める数に限りがあるので、本当はもっと慎重に選ぶべきなのですが、とにかく本は大量に買います。気になるキーワードがあったら、グーグルで検索するよりも先に、アマゾンで検索して本を探すくらいです。

 昔から「本は値段を見ないで買う」と決めているので、部屋の中は「積ん読」本の山です。本以外のものを買うときは値段をかなり気にしますが、本は高くてもせいぜい数千円。アマゾンのマーケットプレイスなら10円程度から古本を売っていますから、気になった本は全部ポチって買い、それがストレス発散にもなっています。

 最近はもっぱらキンドルの電子書籍です。本がうずたかく積まれることがないので、QOL(生活の質)は格段に向上しました。キンドルで読むときは、気になったところを全部ハイライトしています。ハイライトしたところは、キンドルのウェブの管理画面でコピペできるので、それをEvernoteに貼り付ければ、メモを取る手間が省けます。

 そうやってためておいた内容は、折に触れて見返したり、何かを伝えたいときに引用してほかの人に送ったりしています。同じことを言うのでも、自分の言葉より、「昔の人はこんなことを言っていたらしいよ」と援用するほうが、より説得力が増すからです。

 物事を俯瞰的に見たいときには、歴史物が楽しめます。

 たとえば、明治維新の話を読むと、「勝てば官軍」という言葉が実感をともなってよく理解できます。とくに、半藤一利さんの『幕末史』がおすすめです。

 明治維新というのは不思議な革命です。たとえば、吉田松陰は尊王攘夷で「夷狄を追い払え」と主張し、彼の教え子たちの活躍もあって倒幕は成ったけれど、明治新政府が実際にとった政策は、吉田松陰の考えとは真逆の「開国」ですから。

 そもそも、当時の幕府は開国政策を進めていたわけで、何のために争ったのか、正統性の面では疑問の余地が多々あります。正義が勝つわけではなく、勝ったほうが正義になる。これが歴史の真実なのでしょう。

 その一方で、やはり大義は重要だとも感じます。吉田松陰がビジョンを打ち出したから、そこにだんだん人が集まり、大きなうねりとなっていきました。そういう連鎖を生み出すもととなるのは、やはり大義ではないでしょうか。旗を掲げる人の資質や能力も大事かもしれませんが、それよりも、大きな絵を描くことそのものに意味があると思うのです。

 明治維新もそうですが、戦後の混乱期に、本田宗一郎さんや盛田昭夫さんのような偉大な経営者、ビジョナリーが登場したのは、辺り一面が焼け野原で、とにかくモノがない、勤めるべき会社もない、つくるしかないという必要に駆られた状態だったからこそ、そういうモメンタムが生まれたのだろうと思います。

 極端な話ですが、大企業が軒並み潰れて人材が放出されれば、日本でも続々と新たな会社が生まれたり、自然とイノベーションの芽が出てきたりするのでしょう。でも、さすがにそれでは痛みが大きすぎます。できるだけ潰さないようにしながら、擬似的な焼け野原をつくる方法を考えなければいけません。

『幕末史』だけではなく、同じ半藤さんの『昭和史 1926-1945』『昭和史 1945-1989』を読むと、日本人のメンタリティは大して変わらないのではないかと思います。起こってほしくない可能性からは目を背けて、想定さえ避けるのが日本人のメンタリティではないでしょうか。

 IT業界で考えてみても、実名のフェイスブックなんて日本では流行らない、ガラケーよりも性能が悪いiPhoneは日本では売れない、と言われていました。また、ゲームの主戦場がガラケーからスマホ、ブラウザからネイティブアプリに移っても、既存のゲーム開発者は即座には現実を素直に受け入れることができませんでした。きっと根っこは同じです。

 口にしたことは現実になってしまうという「言霊(ことだま)信仰」のせいか、起きてほしくないことを言葉にすること自体がタブーになってしまう。事業が衰退局面にあることは誰もが気づいているのに、口に出すことさえ許されない雰囲気が支配する。これでは時代の変化に対応できません。

 今も昔も人間はそれほど変わらないので、歴史の知識があると、こういう出来事が発生したら次はこうなる可能性が高いと、ある程度、想像力が働くようになります。『失敗の本質』は言わずと知れた名著です。

 組織の中には、全体の意思決定を無視して走り出す「関東軍」のような人たちもいれば、どう考えても勝ち目のない「インパール作戦」を強行しようと主張する人たちも出てきます。

 その結末がどうなったか、知識として知っていれば、「ああ、出た出た」ということで先回りして食いとめることができます。挑戦はできるだけ応援すべきですが、周囲が制止できないまま当事者の意地で進めるインパール作戦であれば、早急にとめないと傷が深くなります。

 歴史本を読む楽しみは、年齢とともに変わります。社会人経験や経営経験を積むことで、歴史の見方もずい分変わると実感しています。

文藝春秋BOOKS
2016年4月2日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

文藝春秋

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