「猫好き」も「猫好き好き」にも堪らない一冊
[レビュアー] 林操(コラムニスト)
桜を愛でる花見もいいが、満開の下で酒呑んで騒ぐヒトを眺める花見見もまたよし、と書いてたのは確か魚柄仁之助。似たようなことは猫にも言えて、猫そのものより、猫に悶えるヒトこそが見モノだったりする。猫好きが猫と戯れる猫カフェだけじゃなく、その店内を盗み見できる猫カフェ覗き部屋にまで商機ありじゃないかと思うくらい。
だから、この本も1冊で2度おいしくて、まず味わえるのは動物生態学者たる著者がきっちり教えてくれる猫の実像。動体視力や嗅覚はやっぱりズバ抜けてるわ、跳んでも走っても想像以上に高くて速いわ、狩りの本能は錆びついてないわで、ツンデレ系の癒しに長けてるだけの愛玩動物じゃないことがよくわかる。
で、2度目のおいしさは、筆致でもわかる著者の猫への愛。院生時代に罹った猫アレルギーを克服したり、猫の島として有名な福岡の相島で7年フィールドワークやったり(このあたりは前著の文春新書『ねこの秘密』にも詳しい)、糞尿トラブルから殺処分(年間8万匹!)までの猫がらみの世の難題に解決策を提言したりで、猫好きのヒト(の観察)を楽しめる猫好き好きにも堪らないかと。
ただ、猫にはヒトの脳にまで影響しかねない寄生虫の問題があって(化け猫・猫憑き伝説の遠因かも)、最近じゃ統合失調との相関疑惑も出てきてます。そのあたり、この本で触れられていないのも猫愛ゆえ?