【話題の本】『翔んで埼玉』魔夜峰央著
[レビュアー] 渋沢和彦
■悪名は無名に勝る
主人公の埼玉育ちの美少年が東京都民の埼玉弾圧に立ち向かうというマンガである。「埼玉から東京へ行くには通行手形が必要なのです」「犬以下の埼玉県民をかばいだてするつもりか」などと同県民を徹底的にさげすむ。
もともと30年前に刊行された著者の『やおい君の日常的でない生活』(白泉社)に収録されていた作品。「現代性に富み、今こそ世に出すべき作品だと思いました。同時に魔夜先生の先見性に驚愕(きょうがく)しました」と企画と編集を担当した「このマンガがすごい!」の薗部真一編集長は話す。
知る人ぞ知るカルト的作品だったが、ネットで話題となり復刊に至った。昨年末に発売されると、人気テレビ番組で取り上げられ、ツイッターなどで拡散。現在、発行部数は55万部を突破した。
売り上げの3割を埼玉県内の書店が占め、観光イベントで薗部編集長から本書を受け取った同県の上田清司知事は「悪名は無名に勝る」と語ったという。全国5位の人口を誇る大県の余裕だろうか。
群馬県を題材にした井田ヒロトの『お前はまだグンマを知らない』などを収めた『この「地方ディス」マンガがひどい!』も好調だという。(宝島社・700円+税)
渋沢和彦