広島の平和記念公園の原爆供養塔には身元不明の被爆者の遺骨が祭られている。ここにはかつて毎日掃除をする喪服の佐伯敏子さんがいた。彼女が病に倒れた後、著者は遺骨の身元と遺族を捜す旅に赴く。名前や住所がありながら無縁仏となったのはなぜ? 前半は佐伯さんの半生記、後半は納骨名簿の謎を解く調査が展開される。
「歴史は生き残った者たちの言葉で語られる。しかし戦争の最大の犠牲者は言葉を持たぬ死者たちだ」。被爆の残酷さと戦後行政のふがいなさ、やり場のない怒りに胸が震えた。第47回大宅壮一ノンフィクション賞受賞。(文芸春秋・1750円+税)
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2016年4月17日 掲載
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