探偵と助手ではなく、“探偵&探偵”コンビの新しさ 得意分野を生かして事件に挑む

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探偵と助手ではなく、“探偵&探偵”コンビの新しさ 得意分野を生かして事件に挑む

[レビュアー] 杉江松恋(書評家)

 今、このコンビに注目だ。

 と書くと、まるで漫才師を紹介しているみたいだがそうではない。探偵のコンビである。青崎有吾『ノッキンオン・ロックドドア』に登場する御殿場倒理(とうり)と片無(かたなし)氷雨の二人だ。

 倒理と氷雨は共同で事務所を持っている。ノッキンオン・ロックドドアがその名前で、ブザーなどなくてノックするしかない扉に由来している。連れ立って事件現場にやって来た二人を見て人は問う。どちらが探偵ですか、と。答えは、どちらも、だ。ホームズとワトスンのような探偵と助手のコンビではない。二人はそれぞれ得意分野が違う探偵で、互いの不足箇所を補いあう関係なのだ。倒理は「HOW」、すなわち不可能犯罪がどうやって行われたかを解くのが専門だ。対して氷雨は「WHY」、不可解な状況が生み出された理由を推理するのが得意なのである。

 連作短編集の形式をとっており、本書には七話が収められている。巻頭の表題作は、画家がアトリエ内で刺し殺された事件を扱っている。それは不可能と不可解、二つの謎を共に備えた事件だった。死体が発見されたとき、アトリエの扉は内側から閉ざされて開かない状態だった。つまり密室殺人である。なんとか扉を開けて中に殺到した人々が発見したものは、死体と床に投げ出された六枚の風景画だった。なぜかそのうちの一枚は、画布が真っ赤に塗り潰されていたのである。

 毎回、倒理と氷雨のどちらの得意分野の事件かということが関心の焦点になっていく。年間アンソロジー『ベスト本格ミステリ2015』にも収録された「髪の短くなった死体」は、犯人が被害者の髪の毛を切り取り、現場から持ち去っていた、という状況から複数の解釈が導き出される凝った構成の作品だ。異なる手法を持つ者同士の知恵比べが謎解きを立体的なものにするというのがおもしろい趣向である。昨今人気の探偵キャラクターの珍奇さで売る内容に見せかけて実は硬派な謎解き小説なのだ。

 本シリーズは雑誌連載が継続中である。倒理と氷雨の二人には複雑な過去があるとほのめかされており、その因縁譚にも期待できる。自分では手を汚さない天才犯罪設計者・糸切美影(いとぎりみかげ)や、常に駄菓子を口に運び続けている無愛想な刑事・穿地決(うがちきまり)警部補との関係にも、まだまだ裏があるはずだ。短編ミステリーの新たな里程標(りていひょう)となりそうな、期待度大の短編集である。青田買いをお勧めする次第。いい買物になりますよ、これは。

新潮社 週刊新潮
2016年4月28日号 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

新潮社

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