3・11 震災は日本を変えたのか リチャード・J・サミュエルズ 著 

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3・11 震災は日本を変えたのか リチャード・J・サミュエルズ 著 

[レビュアー] 山岡淳一郎(ノンフィクション作家・東京富士大客員教授)

◆安保、地方自治など詳細に

 熊本の地震被災地に米軍の新型輸送機オスプレイが救援物資を載せて舞い降りた。トモダチ作戦の再来か? 「善意」に被災者は感謝し、自衛隊の大型ヘリのほうが大量に運べるのに…といった声は轟音(ごうおん)にかき消される。

 東日本大震災の<教訓>なのだろうか。米国屈指の知日派政治学者が、本書で3・11の日本に与えた影響を多角的に分析している。震災発生時から民主党政権末期までを対象に「変化」を叫ぶ世論の質を冷静に読み解く。

 大惨事の後には「新方向への変化の加速」「現状維持」「理想主義的な原点回帰」の三つのナラティブ(物語)がせめぎ合うという。それらが「自衛隊と米軍の関係」「エネルギー政策」「地方自治」をどう変えたのか、著者は膨大なデータをもとに探求する。

 興味深いのは自衛隊と米軍の関わりだ。発災直後、日米両政府の連携は滞った。首相補佐官だった細野豪志のグループが形成され、調整が進む。米軍は約二万人を動員し、陸上自衛隊の捜索救助や救援活動を支えるトモダチ作戦へ。だが、日米両軍の「統合支援部隊」はなかなか機能しない。

 そこで「自衛隊とアメリカ軍の双方が、仙台駐屯地(陸上自衛隊東北方面隊)、市ケ谷(防衛省)、横田(米軍基地)に置かれた相手の指令センターにそれぞれの高官を『配属』する」方法を見出し、「真のイノベーション」が展開される。米軍との一体感は自衛隊を高揚させた。災害対応と尖閣諸島問題を視野に上陸用舟艇や無人機計画の予算がつく。しかしながら著者は、日米同盟において本質的な「変化は起こらなかった」「日本は現状維持しつつ、少しずつ向上する」と結論づける。

 なるほど、知日派らしい。本書は民主党政権時代しかカバーしていないとはいえ、その後の安倍政権の集団的自衛権行使容認の安保法制をみれば変化は明らかだ。震災は転換点だった、と後世の日本人はふり返るだろう。
 (プレシ南日子ほか訳、英治出版・3024円)

 <Richard J.Samuels> 米マサチューセッツ工科大教授。著書『富国強兵の遺産』。

◆もう1冊 

 D・ロックバウムほか著『実録 FUKUSHIMA』(水田賢政訳・岩波書店)。原発事故をめぐる米国の対応を再現した実録。

中日新聞 東京新聞
2016年5月8日 掲載
※この記事の内容は掲載当時のものです

中日新聞 東京新聞

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